本研究では,半導体製造プロセスに必要なウェハ保持や機械加工における薄肉工作物保持のための高速着脱可能な無歪み・無荷重固定機構の実現を目的として,電気粘着機能表面の開発を行うことを目的としている.これまでの研究成果を踏まえ,最終年度である平成27年度は当初の計画通り,①片側電極パターンの最適化②真空中での基板搬送を行うための片側電極を適用した電気粘着機能表面の基礎的評価③高真空ならびに高温環境下での電気粘着機能表面の評価ならびに実用可能性の検討を行った.①に関しては,シミュレーションにより電界分布を調べ,電極幅と電極間隔の影響を明らかにした.製造可能な範囲において, 電極幅0.1mm,電極間隔0.1mmの電極パターンが最も高い電場強度を示すことがわかり,実験により高い電気粘着固定力が得られることを確認した.②に関して,真空チャンバ内で電気粘着機能表面の固定力を測定できる専用評価装置を用いて,①の結果に基づき製作した片側電極を適用した電気粘着保持機構の真空下における基礎的評価を行った.搬送基板としてシリコンウェハを用いて電気粘着保持機構に印加する電極間電位差と固定力の関係を調べた結果,固定力の変化幅は小さくなるものの,真空下においても電極間電位差に応じて固定力を調整可能であることがわかった.③ に関して,実際の真空プロセスの環境に近づけるため,評価装置内の真空度を10-4Pa以下として,更に温度環境を150℃まで高めた際の電気粘着保持機構の性能を調べた.真空高温下において,従来の電気粘着ゲルを用いた保持機構は,性能が著しく低下してしまったのに対して,三次元微細構造をベースに開発した電気粘着保持機構は,性能が飛躍的に向上した.具体的には,電極間電位差600Vを印加した際に1.8kPaの固定力を示し,シリコンウェハの真空搬送機構として実用可能性が十分に高いことを確認した.
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