研究課題/領域番号 |
24246035
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研究種目 |
基盤研究(A)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松本 洋一郎 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60111473)
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研究分担者 |
沖田 浩平 日本大学, 生産工学部, 准教授 (20401135)
梅村 晋一郎 東北大学, 医工学研究科, 教授 (20402787)
高木 周 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30272371)
村垣 善浩 東京女子医科大学, 医学部, 教授 (70210028)
光石 衛 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90183110)
葭仲 潔 独立行政法人産業技術総合研究所, ヒューマンライフテクノロジー研究部門, 研究員 (90358341)
東 隆 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (90421932)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 集束超音波治療 / 凝固モニタリング / 早期腫瘍検出 / 生体数値計算 / 音圧分布可視化 |
研究概要 |
本研究では、下記の以下の5つの要素技術、すなわち(1)生体内超音波ビーム計測技術、(2)生体内超音波ビーム制御技術、(3)生体モニタリング技術(体動き補正や効果判定)、(4)生体内超音波伝搬シミュレーション技術、(5)システム評価、の開発を行う。 初年度は特に、生体内超音波ビーム計測技術、生体モニタリング技術、生体内超音波伝搬シミュレーション技術に関する検討を重点的に行った。その結果、生体内超音波ビーム計測技術に関しては、治療トランスデューサからの送信ビームに対する散乱波を受信アレイにおいて受信ビームをスキャンすることにより可視化する治療ビームイメージング手法を開発した。また、生体モニタリング技術に関しては熱凝固に伴う組織の弾性率の変化を治療ビームの放射力の振幅変調により焦点部位の組織のみを振動させ、振幅をモニタリングする手法を開発して、凝固域がモニタリング可能であることを実証した。更に伝搬シミュレーションの開発により、生体組織の5~7%程度の音速変化を伴う軟部組織の生体音速不均一に起因する超音波の波面歪に起因して、ビームの中心位置の移動やピークが分裂することを確認した。 ビーム計測とモニタリングに関しては治療の安全性を高めその精度を向上する、治療の実用化技術として重要である。またシミュレーションに関しては、肋骨などの硬い組織においては多媒質の効果に関する検討例は多いが、臨床データを用いた軟部組織においても、生体の多媒質構造の影響が現れることを定量的に示したのは本研究が初めてであり、その重要性は大きい。従来生体の個人差として扱っていた超音波治療の効果の再現性に関して、個体差も個々の生体構造の物理的にモデリングを行うことにより、高精度補正の可能性があることを示唆している意味でも、その価値は大きい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
5つの要素技術、生体内超音波ビーム計測技術、生体内超音波ビーム制御技術、生体モニタリング技術、生体内超音波伝搬シミュレーション技術、システム評価に関して、初年度は主要な3つの要素技術(生体内超音波ビーム計測技術、生体モニタリング技術、生体内超音波伝搬シミュレーション技術)に関して先行して着手した結果、この3要素技術に関しては、まず、治療の安全性を担保する要素技術を確立させるという当初の目標を達成することが出来た。これまで低侵襲超音波治療が普及しなかったのは、超音波ビームの生体内での振る舞いに関して習熟者にしか分かりずらい部分があり、新しい治療従事者を獲得するのが難しかったことも理由の一つである。治療ビームが治療効果を起こさない低強度の出力で確認出来ることは、初めて超音波治療に触れる医療従事者にとっても価値の高いものであり、安心して治療機を操作することが可能となる。勿論にそれに伴って操作精度が向上することも期待できる。特に軟部組織においても、生体の多媒質構造の影響が現れることを定量的に示した結果は、当初予期した以上の影響があることが新たに判明し、個人差をバラつきとして扱っていた従来の治療設計に新しい指針を与えるものであり、当初の期待を上回る成果である。 残る二つの要素技術のうちシステム評価に関しては当初の予定どおり、他の要素技術が確立した本年度以降本格化する予定であるが、初年度においては先行して動物実験評価系の確立を行っており、概ね予定通りの達成度である。また生体内超音波ビーム制御技術に関しては、ソフトウエア制御装置の導入を行い、システムの立ち上げを行い基本動作の確認を行った。当初の予定どおりの成果を上げており、次年度以降新規な制御手法の提案と実証を行っていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
生体内超音波ビーム計測技術:前年度の検討によって明らかになったビーム計測方式の更なる高度化を目指して散乱体分布とビーム強度の分布を独立して計測する手法開発を行う。 生体内超音波ビーム制御技術:前年度に開発したソフトウエア制御技術を用いて、治療トランスデューサを用いた撮像手法や、その撮像結果に基づいた位相補正法などを開発する。 生体モニタリング技術:前年度はオフラインのシステムで開発と実証を行ったので、本年度はデータ取得と信号処理を同時に行うダイレクトメモリアクセスを用いたリアルタイム処理システムの開発を行い、モニタリング結果を治療にフィードバックするシステムを構築する。 生体内超音波伝搬シミュレーション技術:前年度の検討では理論的な検討を(1)のビーム計測技術を開発するために用いた。次年度以降は、熱凝固モニタリングや、腫瘍の早期発見技術を開拓するための理論的裏付けを数値検討により確立する。生体は細胞、細胞外基質、細胞間液など弾性体と流体の両方を含んだ構造によって形成されている。マクロな組織の粘弾性特性が熱凝固によって変化することが実験的に明らかになっているが、ミクロなレベルでの現象は解明されていない。また、腫瘍での細胞配列の乱れに起因する超音波散乱特性の変化に関しても実験的な検討が主流であり、理論に基づいた検討は不十分である。これらの熱凝固による粘弾性特性の変化や、細胞配列の変化による散乱特性の変化に関して、生体のミクロレベルにおける現象をマルチスケール解析により、マクロレベルの構成方程式に落とし込み、その現象を明らかにする。 システム評価:前年度に構築した動物実験系を用いて評価実験を行い、その結果を各要素技術の開発にフィードバックする。特にビームの定量的な計測によって、実現が期待されるキャビテーションなど非線形作用を活用した超音波治療の再現性や安定性の評価を行う。
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