研究課題/領域番号 |
24246061
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
荒井 滋久 東京工業大学, 量子ナノエレクトロニクス研究センター, 教授 (30151137)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 半導体薄膜レーザ / 光配線 / 極低消費電力動作 |
研究概要 |
オンチップ光配線への応用に向けた小型かつ極低消費電力動作が可能な強光閉じ込め効果を用いた極低しきい値半導体薄膜DFBレーザの実現および高速動作化を目的としている。オンチップ光配線の実現に向けた半導体光源には1 mA以下の極低駆動電流動作と同時に、チップ内で信号を伝送する上で十分な光出力強度と直接変調帯域が要求される。 昨年度までに、これらの要求値を満たす半導体薄膜レーザの実現に向け発振特性および高速変調特性の理論解析と半導体薄膜レーザの構造設計を行った。この結果コア層150 nm、共振器長約40 μmの微細共振器を有する半導体薄膜レーザにおいて、0.16 mW 以上の十分な光出力強度および10 Gb/s以上の直接信号伝送帯域を駆動電流値 1 mAで実現可能であることを示した。 本年度は、熱伝導率の低い低屈折率材料をクラッド層に用いる半導体薄膜レーザ固有の問題点と考えられる、電流注入駆動による自己発熱の影響を理論的に解析し動作特性への影響を評価した。その結果、半導体薄膜レーザの熱抵抗値は約6100 K/Wと従来の半導体レーザに比べて約100倍高いが、動作電力は1/100以下と試算され、自己発熱がの動作特性解析に及ぼす影響は軽微であることを明らかにした。 本年度は、半導体コア層厚220 nmの半導体薄膜ファブリ・ペロー共振器レーザを試作し、共振器長350 μmでしきい値電流 2.5 mAの室温連続動作を得ることに成功すると共に、その外部微分量子効率の共振器長依存性から、注入電流が発光過程に寄与する内部量子効率は従来型半導体レーザと遜色ない75%に達していることを明らかにした。 そして、表面に30 nm程度の深さの表面回折格子を形成した半導体薄膜分布帰還レーザを試作し、しきい値電流 0.39 mAの極低電流室温連続動作を得ることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の研究成果から、回折格子を導入した半導体薄膜分布帰還レーザでは、1 mA以下の極低しきい値電流動作が可能であると予測した通り、2年目の研究では試作した半導体薄膜分布帰還レーザにおいて0.39 mAの極低しきい値電流動作を達成した。 また、共振器長の異なる多くの半導体薄膜レーザを作製し、その外部微分量子効率特性から注入電流が発光過程に寄与する割合である内部量子効率は75%であることを実験的に明らかにした。この値はこの波長帯で動作する従来の半導体レーザと遜色ない値であり、220 nm厚の半導体薄膜構造でも非発光再結合が十分に抑制された光デバイスが実現できることを実証したものである。 これらの成果から、さらに強い回折格子構造化および短共振器構造化を行うことにより、0.1 mA以下の極低電流動作、および1 mA以下の極低電流動作での10 Gb/s以上の超高速動作が可能と見込まれ、オンチップ光配線の要求を総合的に満たすデバイス開発への展開が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度中に半導体薄膜分布帰還レーザの共振器長を50 μm以下にして0.1 mA程度の極低しきい値動作を達成することを目標としていたが、結晶成長装置のトラブル等により、3ヶ月ほど実験が進まなかった。しかし、半導体薄膜分布帰還レーザの極低しきい値電流動作、および半導体薄膜構造の内部量子効率の評価は達成でき、半導体薄膜構造に特有の困難な問題点はほぼ解決できた。 最終年度となる来年度は、この半導体薄膜分布帰還レーザの短共振器化による極低電流動作を推進すると共に、10 Gb/s以上の超高速直接変調特性を測定し、理論解析結果との比較検討を行う。 さらに、本年度に報告した半導体薄膜構造光検出器とこのレーザを半導体薄膜光導波路を介して接続した「半導体薄膜構造光リンク」を試作し、10 Gb/s以上の超高速光信号伝送を行うと共に、1ビットの信号伝送に必要な光電力(エネルギーコスト)を実験的に明らかにする。
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