研究課題/領域番号 |
24246105
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研究種目 |
基盤研究(A)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
白井 泰治 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20154354)
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研究分担者 |
杉田 一樹 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30517470)
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研究期間 (年度) |
2012-05-31 – 2015-03-31
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キーワード | 金属材料 / 原子空孔 / 相変態 / アルミニウム合金 / 陽電子消滅 |
研究概要 |
[研究の目的]金属材料中の原子空孔の形成機構として現在までに知られているのは、a.昇温、b.塑性変形、c.粒子線照射、d.化学量論組成からのズレの4種である。本研究では、これまでその存在と役割が見落とされていた全く新しい空孔形成機構“相変態誘起原子空孔”が存在し、拡散速度ひいては相変態プロセスに大きな影響を与えていることを、世界に先がけて実証することを目的としている。上記4種の空孔導入法は、格子欠陥研究の黎明期において既に知られていた。それ以来数十年ぶりに、全く新しい空孔形成機構を日本から世界に提唱しようとするものである。 [実用アルミニウム合金における新たな空孔形成現象の発見]自動車用板材として実用上極めて重要な6000系アルミニウム合金を用いて、急冷空孔を含めた非平衡空孔の消長を調べた。この合金系についてはこれまでの多くの研究成果を参照できるため、より短時間で研究目的の達成が期待された。具体的には、溶体化処理後急冷した試料の等温および等時焼鈍過程で、凍結空孔の消滅過程や析出の進行に伴う新たな空孔の形成を明らかにした。その結果、実用アルミニウム合金で、世界で初めて相変態誘起空孔の存在を明らかにした。 [空孔周囲の溶質元素分析に成功]陽電子消滅同時計測ドップラー広がり法(CDB法)を用いて、材料中のナノ析出物や格子欠陥周辺の元素分析が可能になった。この手法を活用して、6000系アルミニウム合金中の過剰空孔の周囲の溶質元素を比率を分析することに成功した。この研究結果は、既存の如何なる分析手法でもとらえられなかった貴重な情報であり、今後自動車用アルミニウム合金の性能向上に向けて、原子レベルでのプロセス設計を可能にする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
エネルギー消費の削減に向けて、自動車の軽量化は喫緊の課題であり、その一つの方策が、軽くて強いアルミニウム合金の使用である。現在Al-Mg-Si合金が最も有望な合金系であり、一部実用に供されている。この合金の特徴は、自動車パネルの作成時には柔らかく、自動車の焼付塗装中に時効析出強化して十分な強度を付与できるベークハード性にある。しかし、室温保存中に凍結空孔が溶質原子の拡散を促し、プレス加工性を阻害したり、焼付塗装による時効強化量が不足する等の問題が未解決であった。 上記の実用上の問題を解決するためには、時効強化を引き起こす原子空孔やその周囲の元素を直接分析することが不可欠であったが、上記実績に述べたように、本研究によって原子スケールで明らかになりつつある。特に重要な点は、アルミニウム中で溶質原子を運んでいたのは、従来考えられていた急冷による凍結空孔だけではなく、相変態誘起空孔が重要な働きをしていることを、世界で初めて明らかにして点にある。本発見は、基礎学問的に重要であるばかりではなく、最先端の自動車用アルミニウム合金の設計とプロセス開発に、原子レベルでの直接的な情報を提供するものである。
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今後の研究の推進方策 |
[実験的検証の継続] 電気化学的手法による水素化・脱水素化に伴なう空孔形成を明らかにする。高温・高水素圧を必要とせず、常温・常圧で水素化・脱水素化を起こすことが可能であるため、空孔形成メカニズムを絞り込むことが可能となる。試料はFeとその合金を予定している。 内部酸化、内部窒化を用いると、多量のナノ析出物が形成され、それらは極めて大きな整合歪を伴なっていることが知られている。この場合、高濃度の原子空孔が形成されていることを陽電子消滅によって明らかにする。内酸のマトリックスとしては、Cu、Agを、内部窒化については、Mo系を用いる予定である。 [理論的検証] 形成された空孔濃度の評価を行う。前年度までに得られた実験結果にもとづき、各形成条件(整合歪、体積歪)と形成された空孔量の関係を定量的に明らかにする。そのために、標準試料(空孔濃度既知)の作成・測定、寿命スペクトルの多成分解析、第一原理計算による空孔サイズ・位置の決定を行なう。整合歪、体積歪いずれの場合も、その歪エネルギーは体積と歪量の2乗に比例することが知られており、このエネルギーと空孔濃度との相関を明らかにする。 上記の結果をもとに、空孔形成条件を明確にし、具体的な空孔形成メカニズムを解明する。更に、エネルギー収支バランスを定量的に評価し、空孔濃度の評価式を提案する。すなわち、相変態時の化学エネルギー、歪エネルギー、欠陥エネルギーのヒエラルヒーを、各相変態について定量的に評価し、エネルギー収支を明らかにする。一方、整合界面と非整合界面での空孔形成メカニズムの原子的描像を明らかにする。
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