研究課題/領域番号 |
24246113
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
乾 晴行 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30213135)
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研究分担者 |
岸田 恭輔 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20354178)
岡本 範彦 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (60505692)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 界面変形抵抗 / マイクロピラー / 試験片サイズ依存症 / 水素 / 双結晶 / 弾性拘束応力 / 応力集中 / 転位源 |
研究概要 |
材料の強化方法の1つとして,結晶粒界や界面(双晶境界,異相界面など)を利用する手法が古くから用いられている.しかし,バルク構造体では界面が無数に導入されることによりバルク強度特性を発現させており,個々の界面の強化特性を評価した例は意外に少ない.本研究では,界面をたった1つ含むミクロンサイズのマイクロピラー試験片の圧縮試験から,個々の界面の変形伝播に対する真の抵抗,イントリンシック界面変形抵抗の定量評価を試みている. 立方体形状の L12析出相がFCC母相に析出したNi基超合金を3次元界面,2相がラメラー状に積み重なったTiAl/Ti3Al合金を2次元界面の例として取り上げ,界面抵抗の実験評価を試みた.実験が先行しているNi基超合金では,正および負の格子ミスフィット(+0.3%, -0.3%)をもつ単結晶合金を作製し,L12析出相の大きさを0.5μmに調整し,<001>を圧縮方位としてマイクロピラー圧縮試験を行った.両相には格子ミスフィットに応じて弾性拘束応力が生じているが,バルクでは,軟相のFCC母相にはそれぞれ引張,圧縮の弾性応力が生じるが,ピラーサイズが1μm程度(L12析出相の大きさと同等)まで小さくなると,この弾性応力は,格子ミスフィットが正,負の場合,試料サイズの減少とともに,それぞれ増大,減少することがフェイズ・フィールド法によるシミュレーションから明らかになった.これに応じて,マイクロピラー試験片の降伏応力は試料サイズの減少とともに減少(格子ミスフィットが正),増加した(格子ミスフィットが負).TiAl/Ti3Al合金でも格子ミスフィットに基づく弾性応力の効果が現れ,格子ミスフィットを持つ(TiAl相の正方晶歪に起因)擬双晶界面を含む試料で,試験片サイズがサブミクロンオーダーに降伏応力のサイズ依存性に不連続が現れることが確かめられた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
試験片サイズを小さくするほど,界面による弾性拘束応力や粒内転位源からの応力集中が小さくなり,試料サイズが極限まで小さくなり,それらがフリーの状態となって真に変形伝播に対する界面抵抗が導出できる.イントリンシック界面変形抵抗はその定義から,マイクロピラー試験片サイズが極限まで小さくなった状態で評価できる新規な界面力学物性であるため,実験的にサブミクロンメーターサイズの試験片を変形できる実験手法を確立することは大変重要な課題であった.前年度に引き続いて,試験片のFIB加工手法(界面を試験片中央に導入する手法,試料両端の平行度の確保)の開発,試験片端面と圧縮治具(ダイヤモンド・フラットパンチ)の平行度の確保,位置決め手法の確立をすべて前年度目標を上方修正しながらクリアし,サブミクロンメーターサイズの試験片を変形できる実験手法の確立を達成した.現在,実験可能な最小試験片サイズは0.05~0.1μmである.Ni基超合金およびTiAl/Ti3Al合金で特異な変形挙動は0.6~1μm前後で起こり,試験手法の確立により,これを実験的に検証することに成功した.また,フェイズ・フィールド法によるシミュレーションソフトも開発でき,弾性拘束応力の解放を試験片の位置の関数として定量評価できるようになっている.この結果,Ni基超合金における異相界面のイントリンシック界面変形抵抗の下限値(弾性ミスフィット応力の最大値を単純に用いれば)として860MPaを得ることができた.
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今後の研究の推進方策 |
界面を伴うマイクロピラー試験片の降伏応力の試験片サイズ依存性は,サイズ減少とともに単調に増加するようなものではなく,サブミクロンオーダーで変形挙動に異常が生じることが明らかになった.フェイズ・フィールド法によるシミュレーションは,この変形異常は弾性格子ミスフィット応力の解放と関連しており,粒内転位源からの応力集中はあまり寄与しないことを示唆している.即ち,このような変形挙動の相違を支配する因子としては,粒内転位源からの応力集中よりも弾性格子ミスフィット応力が重要との示唆であるが,粒内転位源からの応力集中の寄与の程度を明らかにするため,フェイズ・フィールドシミュレーションで持ち込み転位源を導入し,その分布,密度を変化させて計算すべく,プログラムのアップグレードを急ぎたい.また,弾性格子ミスフィット応力の解放による変形挙動はサブミクロンオーダー以下の試験片でのみ観察され,実験可能な最小試験片サイズが0.05~0.1μmにまで実験手法を確立しているので,その変形挙動をSEMあるいはTEMレベルででも観察できるようにしたい.特筆すべき研究計画の変更や研究遂行上の問題点はない.
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