研究課題/領域番号 |
24246129
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
實川 浩一郎 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (50235793)
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研究分担者 |
満留 敬人 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (00437360)
水垣 共雄 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (50314406)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 触媒化学 / ナノ粒子 / 環境調和型反応 / マクロリガンド / バイオマス |
研究実績の概要 |
研究分担者の実績を含めて、平成26年度は8件の論文報告(うち査読あり8件)を行い、すべての論文が本研究テーマの成果である。さらに研究継続により新しい成果を発表する論文も投稿準備中である。 本研究の24,25年度の成果によって、マクロリガンドとしてハイドロタルサイトやハイドロキシアパタイトのような結晶性無機化合物を担体として用いる場合、各種の遷移金属を単核、もしくは単核を分散させた後還元する方法でナノサイズの粒子を、それぞれ固体上に高分散に担持させることが可能になっている。この成果を受けて26年度はナノ粒子調製法をさらに検討し、上記のナノ粒子と固体との相互作用によって導かれる協奏的な機能を活かした新規な環境調和型反応を開発した。またデンドリマーのような有機マクロリガンドを用いる場合、反応場としてのポリアミンの効果によるイオンペア的な相互作用の発現によりクラスター触媒の複合機能を調製でき、ニトロ基のアミノ基への高選択的な還元反応が可能になった。 また環境調和型反応を指向した触媒反応では、再生可能資源の有効利用の観点からバイオマスを出発原料とする官能基変換反応にも取り組み、エンジニアリングプラスチックの原料となるジオール類や、食品添加物などに広く用いられるヒドロキシアセテート類を、再生可能資源から効率よく合成できる反応を開発した。特に後者の反応はアメリカ化学会のACS Sustainable Chemistry Engineering誌の表紙に掲載されるトピックス的な研究成果であった。このように従来は石油化学から誘導していた各種の化成品を、石油代替のバイオマスから合成できる触媒反応系を開発したことは、今後の資源循環型化学の発展に非常に重要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
有機化合物の触媒的官能基変換反応の中で、還元反応は有機物だけでなく金属種も還元されるので、水素化活性のある金属種はほとんど0価となって粒子化する。本研究では触媒を還元反応に用いる場合、マクロリガンドと金属種との相互作用を設計し、ナノ粒子と秩序構造を有する有機や無機固体との複合体(マクロリガンド触媒)を合成する方法を確立した。その結果、繰り返し再使用可能な強い(robust)触媒によって、水素を還元剤として温和な条件で選択的に含酸素官能基を還元して、有用化合物に変換できるプロセスを開発できることを明らかにした。 一方、異性化や加水分解などの中心金属の還元状態を経由しない反応を促進する触媒として、単核または複核の遷移金属種をマクロリガンドに担持させた活性種が有効であるとの知見も得ることができた。これらの触媒では、中心金属に配位する基質をマクロリガンド表面の規則的に配列した官能基が、基質を活性化させる過程を経由すると考えており、従来の錯体触媒のメカニズムを準用した考察が可能なので、今後の固体触媒設計の指針となる。 さらに酸化反応の場合、酸素分子が直接基質に取り込まれる酸素化については、まだマクロリガンド触媒を設計するための指針として充分な成果を得ていないが、酸素分子を中心金属の再酸化剤もしくは金属中心の電子移動剤として利用する触媒反応系についての知見を得ている。この場合、形式的な反応としては酸素官能基導入であっても、その酸素は求核剤に由来する反応、もしくは酸素は反応で生成する水素のアクセプターとして作用する反応であるが、温和な条件で高選択性を発現する酸化反応となる。 26年度を含めて本研究の3年間で、以上のような各種の環境調和型反応に適用できる、マクロリガンド触媒を開拓してきた。その成果は発表論文の数を見る間でもなく、当初予想したものをはるかに超えるところにきたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
結晶性無機固体をマクロリガンドとして利用した場合、酸化還元電位の高い金や白金、パラジウムなどの貴金属類は、容易に還元されて固体表面でナノ粒子化した触媒となる。このようにして調製した触媒は、ナノ粒子の特徴と固体表面との相互作用により高活性を示すので、液相でのファインケミストリー合成に適用でき、各種の環境調和型反応を高選択的に進行させる。現在のところ本法で調製した触媒は還元反応に用いて様々な成果を挙げているが、今後はさらに還元反応以外にも適用できるかどうかの検討を行なう。また、特にマクロリガンド触媒の特性を凝縮したと考えられるコアシェル型触媒についても、還元反応をはじめとして、各種の環境調和型の官能基変換反応を試みる予定である。 ナノ粒子以外の単核もしくは複核の活性中心を有するマクロリガンド触媒に関しては、異性化や酸化反応に適用できることを見いだしているので、さらに反応の拡張性を検討する。特に有機マクロリガンドの場合固体よりも精密な設計できるので、ファインチューニングの考えを取り入れた高機能触媒の開発方法について、触媒の構造と反応の活性の相関の面から検討する。 本研究では環境調和型反応の開発を目的として触媒設計を行なっているが、さらにグリーンケミストリーとしては原料も持続可能な資源を用いる必要がある。そこで、触媒設計の観点ではなく反応開発の観点からは、バイオマスの有効利用も新たな検討課題としている。バイオマスは高度に水酸化された化合物を多く含んでおり、それからの選択的な脱酸素が大きな課題である。本研究では既に協奏的機能を発揮する新規なマクロリガンド触媒を用いると、極性な水素種を水素分子から生成させるノウハウを得ている。その知見をもとにグリーンケミストリーにマッチするポリオール類の有用ケミカルズへの変換反応についても検討して行く。
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