研究課題
本研究の目的は、石油の増進回収技術(EOR)にとって必須である貯留層内の微細な孔隙内での流体流動の理解と、貯留届内での原油―地層水―岩石鉱物表面でのナノスケールでの相互作用を明らかにすることである。これを達成するために、Spring-8を利用したX線反射率法およびCTR法の実験を進めてきた。さらにその成果の検討のため、分子動力学を用いた計算化学の手法を用いた検討を進め、シリカ表面の表面形状と濡れ性の関係に関する興味深い結果を得た。また国内油田に対するEORの適用を進めるためにDigital Oil概念を用い、昨年度に引き続き、国内油田で採取された原油試料に対して化学分析を進め、原油の炭化水素の分子構成をQMR(Quantitative Molecular Representation)法を用いて決定した。現在推定された炭化水素の分子構造に対して、アスファルテン分子の凝固エネルギーを計算している。また近年シェールオイルの開発が我が国においても進められているが、今までとは異なったガス貯留層の為に埋蔵量の推定が困難といわれている。このためシェール貯留層の微細な孔隙内のケロジェン分子に吸着しているメタンガスの量を、分子動力学を用いて推定し、孔隙内以外に存在するメタンガス量の推定手法を確立した。さらに浸透率の計算に必要となる、壁面上で滑りを伴うガスの流動に対して、格子ボルツマン法(Lattice Boltzmann Method)と分子動力学法とのシミュレーションを行い、理論解と良い整合が得られた。
1: 当初の計画以上に進展している
平成26年度の研究の進捗は、大変順調に進んだ。特に原油に対する炭化水素分子構成モデルであるDigital Oilモデルの構成研究において、国内の原油試料を使って行えた点は大変意義深い。このモデルの重要性は、油・ガス田において生産が進むに従って、温度・圧力条件が変化することに応じて、原油の性状がどのように変化し、さらにアスファルテン分子が凝固して、生産活動に影響が出て来る条件が、予測出来るようになった。さらにこのデータをマクロなレザーバーシミュレーターの入力に使用する予定である。その結果と具体的な油田での生産活動の履歴を比較し、手法の検討を研究協力者である民間石油会社と進める予定である。基礎研究としては、国内最大の放射光源であるSpring-8を利用し、鉱物表面における炭化水素と水の吸着構造に対して、繰り返し実験を行うことで鉱物表面での油分子の振る舞いに対する情報を得ることが出来た。これはEOR技術に不可避な鉱物表面での濡れ性の解明に向けた先端的かつ基礎的な研究であり、その成果が出つつあると考えている。シュールオイル、シェールガスの貯留層では微細な孔隙内に存在するケロジェン分子にメタン分子が吸着する。これを正しく評価するために、3種類のケロジェン分子モデルを構築し、さらに分子動力学を用いて、ケロジェン分子に対するメタンの吸着量を評価した。この量を正しく評価することは、現在世界各地で探鉱が行われているシェールオイルの埋蔵量評価に大きく影響を及ぼす。これらの結果に関しては現在論文を準備中である。
今後とも効果的な石油の増進回収技術(EOR)を開発するため、ナノスケールでの実験と第一原理計算(ab-initio)や分子動力学等の理論手法を駆使し、原油-水-岩石鉱物の3 相界面での物理化学現象の基礎的な理解を進める。これらの基礎原理の理解は、将来的には化学薬剤あるいはその混合物を油層に圧入して原油の採収率の向上を図る界面活性剤攻法(surfactant flood)等に直接的に利用出来る。今後ともSpring-8を利用し、鉱物表面での油分子の振る舞いを解明し、濡れ性と分子レベルでの性状の関係性を明らかにする。この評価に必要となるDigital Oilは、原油サンプルに対して今まで行って来た結果を利用する。これを用いて地下貯留層での圧力温度条件での原油の物性特性を評価する。さらに流れの場の再現のため、流動に対するナノとミクロモデルの統合を進め、マルチスケールシミュレーション技術を開発する。これらの成果を統合し、平成27年度の最終年度として資源システム工学分野におけるナノジオサイエンスの学としての骨格を作り上げる。
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