研究課題/領域番号 |
24246156
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
笹 公和 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (20312796)
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研究分担者 |
末木 啓介 筑波大学, 数理物質系, 教授 (90187609)
松崎 浩之 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60313194)
松四 雄騎 京都大学, 防災研究所, 准教授 (90596438)
松村 宏 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 放射線科学センター, 准教授 (30328661)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 長寿命放射性核種 / 加速器質量分析法 / 環境放射能 / 環境影響評価 / 塩素36 / ヨウ素129 / クリアランスレベル |
研究概要 |
本研究課題では、大気核実験や原子力関連施設及び福島第一原発事故等で環境中に放出された人為起源の長寿命放射性核種であるC-14, Cl-36, I-129 等を加速器質量分析法(Accelerator Mass Spectrometry: AMS)で高感度に検出する手法を開発して、環境中での放射性核種分布の状況調査と環境影響評価研究を実施する。環境中に放出された極微量の長寿命放射性核種について、高感度・高精度AMS測定による環境動態研究の総合的な展開を図る。 本年度は、福島県及びその周辺地域の土壌及び河川での人為起源放射性核種の環境移行調査を実施した。主な測定対象核種はCs-137、Ag-110mとI-129等である。また、人為起源によるC-14用の炭素試料前処理システムについて、自動AAA処理装置、元素分析計・CO2精製装置、およびグラファイト化装置から成るシステムを開発した。その他、東京大学タンデム加速器施設の5 MVタンデム加速器から成るAMSシステムを用いて、多電極型ガス検出器によるCl-36及びSr-90の加速器質量分析の試験測定を開始した。Srについては、0.5μAのSrF3-ビームの取り出しに成功し、パイロットビームとして同重体のZr-90の観察に成功した。 表層土壌中のI-129のAMS測定では、福島第一原発事故起源のI-129分布状況とI-129/I-131比の関係を調査した。表層土壌でのI-129/I-131比は、25.6±5.8 (2011年3月11日換算)であった。Cs-137、Ag-110m等の分析と並行して、同位体比の測定結果と原子炉内で照射された核燃料の同位体組成を計算するORIGEN2.2コードによる各炉内の燃料組成評価との比較を進めた。土壌中のI-129深度分布については、福島第一原発から 西へ4.2 kmと8.4 kmの地点について、事故前(2008年5月)と事故後 (2012 年11月)に採取した土壌コアの測定結果について比較検討を行った。事故後において、I-129の全インベントリーは、西4.2 km地点で1.91 Bq m-2、西8.4 km地点で0.71 Bq m-2であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
福島第一原発事故由来のI-129/I-131原子数比の関係を明らかにした。I-129のAMS測定結果から、福島第一原発事故により放出されたI-131の降下・沈着量の復元に向けて、大きく前進する研究成果を得た。福島第一原発事故前後の土壌中の放射性核種深度分布を明らかにした。放射性セシウムや放射性ヨウ素の土壌中での環境移行過程を明らかにした。 その他、炭素14試料前処理システムの自動化を構築した他に、Cl-36及びSr-90等のAMS測定の実現可能性を見出した。本研究課題は、当初の計画以上に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
福島第一原発事故に関連した環境試料中の長寿命放射性核種であるI-129について、加速器質量分析法での分析調査を進展させる。また、Cs-137、Ag-110m等の分析を並行して進め、ORIGEN2.2コードによる計算結果なども考慮して、福島第一原発事故時の原子炉内の状態解析と福島県内の放射性核種の分布について地域別の放出源の推定を進展させる。また、I-129/I-131比の実測結果から、福島第一原発事故時に降下・沈着したI-131の復元に取り組む。その他、本年度は環境中の人為起源C-14のAMS測定を推進する。特に、福島第一原発の原子炉内(1―3号機)では、核分裂に伴って生成されるC-14がI-129とほぼ同レベルの(2.02―2.45)E+11 Bq/core生成していることがORIGEN2.2の解析によって見積られている。福島第一原発事故起源C-14がCO2あるいは粒子として環境中に放出された可能性がある。その可能性を検証するため、福島第一原発事故前後の土壌試料と年輪試料について、炭素試料前処理システムでグラファイトを作製し、C-14の試験測定を行う。 福島第一原発事故以降、環境試料中のSr-90の測定需要が劇的に増加している。長寿命放射性核種のAMS測定においては、多電極型ガス検出器によるCl-36及びSr-90の加速器質量分析の開発を進める。Sr-90では、可能な限り化学処理で妨害となるZr-90を取り除いた試料のAMS測定評価を行う。その他、クリアランス調査に関連する長寿命放射性核種の加速器質量分析による検出手法を開発する。また、筑波大学に導入される6 MVタンデム加速器質量分析装置を用いて、様々な長寿命放射性核種のAMS測定手法の研究開発を推進する。
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