研究課題
平成24年度神経活動が行動をどのように制御しているのかを理解するために、神経細胞の接続関係が完全に分かっている線虫にオプトジェネティクスを用いることで、特定の神経細胞の活動と行動変化の関係を調べることを目的とした。一般に神経活動の興奮に用いられているchannelrhodopsin-2 (ChR2)は470nm程度の青色光で励起されるが、一方で青色光自体が線虫の行動に影響を与えることも知られている。このチャネルロドプシンを使った行動実験での青色光の影響を回避するため、改変型チャネルロドプシンchannelrhodopsin green receiver (ChRGR)を用いることを検討した。ChRGRは505nmをピークとした緑色光により励起されるため、青色光に比べて線虫の行動に与える影響が少ないと考えられた。線虫ゲノムにコドンオプティマイズさせたChRGRの配列を、線虫の温度受容神経細胞であるAFD特異的に発現させることが知られているプロモーターにつなげたDNAコンストラクトを作成し、これを導入することでChRGRをAFD神経細胞に発現させたトランスジェニック系統を作成した。また同時に緑色光自体が行動に影響するかどうか、温度勾配上で観察される温度走性行動を利用して、緑色光の影響を調べた。2 mW/mm×2程度の強い光を連続で照射した場合、緑色光でも行動に影響を与えるが、パルス光を使うことでこれが回避されることが分かった。青色光を使う場合、パルス光にしても行動異常(好冷性の温度走性)が見られたため、青光よりも緑色の方が行動に対する影響が少ないと考えられた。今後、AFD神経細胞にChRGRを発現させた個体と緑色パルス光を用いてAFD神経細胞の活性とその行動への影響を検証する予定である。
2: おおむね順調に進展している
本研究は最先端の光遺伝学的手法を駆使して、温度走性行動を制御する神経回路の情報処理機構を解明することを目的とする。従来のチャネルロドプシンの問題点を克服するために、近年、性質や機能の異なる光遺伝学解析のためのタンパク質が競って開発されてきたが、実験に使用できるかどうかの検証は未だなされていない。今年度は、改良型チャンネルロドプシン実際の実験に活用するために、光照射条件の詳細な検討を行った。画期的研究成果を得るためには必須な実験プロセスを着実に踏んでいると考えられる。
今後も実験条件の検討を行うことで最適な条件を見いだし、温度記憶中のAFD温度感覚ニューロンや、温度走性行動中のAFD、AIY、RIAニューロンの活動を操作することで、神経回路動態を解き明かし、神経系における情報処理機構を解明したいと考えている。
すべて 2013 2012 その他
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 6件) 図書 (2件)
PLoS One.
巻: 8 ページ: 未定
10.1371/journal.pone.0054511
Curr Opin Neurobiol.
巻: 23 ページ: 未定
10.1016/j.conb.2012.09.005
J Neurochem.
巻: 124 ページ: 685-694
10.1111/jnc.12112.
Nano Lett.
巻: 12 ページ: 5726-5732
10.1021/nl302979d
実験医学
巻: 30 ページ: 2590-2591
Genetics
巻: 191 ページ: 509-521
10.1534/genetics.111.137844
Genes Cells.
巻: 17 ページ: 365-386
10.1111/j.1365-2443.2012.01594.x