1.Shh遺伝子座の染色体高次構造に寄与する領域を明らかにするため、この遺伝子座に長距離欠失を持つマウスを作製した。CRISPR/Cas9系を利用して、肢芽エンハンサーの上流と下流にそれぞれ約60 Kbの欠失を持つ2系統のマウスの作出に成功している。肢芽エンハンサー上流の60 Kbの欠失では、近傍の遺伝子の発現パターンがShh遺伝子様に変化しており、組織特異的エンハンサーの活性を組織化するゲノム領域の存在が示唆された。 Cas9 mRNAとloxpオリゴDNAを受精卵に導入して、Cohesinローディング因子であるMau2遺伝子の条件的ノックアウト(cKO)マウスを作製した。Cohesinの複合体形成に必須のESCO2遺伝子のcKOマウスとともに、肢芽特異的なCreマウスもしくは試薬誘導型のCreERT2マウスとの交配を行い、表現型解析と遺伝子発現解析が進行中である。特に肢芽特異的にESCO2を欠失させた場合には、四肢の欠損が観察された。 2. 既知のShhの肺・消化管エンハンサーは、SLGEとMACS1の二つのみである。エンハンサーの機能重層化の実態を明らかにするため、両者のダブルKOマウスを作製した。マイクロCTによる形態解析の結果、ダブルKOマウスで肺形成不全がみられた。しかし、Shh翻訳領域のKOマウスは、肺や上部消化管により重篤な欠損を示すことから、機能重複的な新規エンハンサーの存在が示唆された。エンハンサーの機能重層化を包括的に理解する目的で、SLGEとMACS1の間に存在する650 Kbの長距離欠失マウスの作製が完了した。 また、MACS1と呼吸器官の形態進化との相関性を明らかにするため、主に条鰭類ゲノムを用い、サザンブロット解析によってMACS1の保存性を検証した。その結果、呼吸器官の機能、形態進化がすすむ真骨魚類内にMACS1保存性の境界を見いだした。
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