研究課題
植物の花芽形成には日長や温度などの様々な環境要因が関わるとともに、同一の環境要因に対しても複数の遺伝子が相互に関与している。花芽形成遺伝子(FT)は、複数の経路から制御(抑制)を受けており、各経路においては上流から下流に向けて光感受物質とこのシグナルを伝達する複数の遺伝子群が関与している。本研究では、野生集団の花芽形成が緯度に沿って顕著な違いを呈するマメ科のミヤコグサを研究対象にして、植物が生育地の緯度の光環境に対して開花のタイミングを計り、最適な繁殖成功をもたらすことに関与している遺伝子を同定することを目的にした。本年度は種内における概日時計遺伝子LjE1とLjGIの遺伝子型多型を探索して、その地理分布を日本列島上に配置した。その結果、1.未同定であったLjGIの1と構造を新たに決定した。2.LjE1, LjGIにおける多型は非同義置換であることがわかった。3. 異なるアリルが南北で分化している傾向があることを見いだした。これらの知見は、概日時計系のLjE1とLjGIが緯度の光環境に対応して開花期の制御を行っている可能性を示唆している。さらにLjFTとLjE1の発現パターンをRT-PCRを行って確認したところ、先行研究とは異なり、これらは葉ではなくて根で発現していることがわかった。その意義については不明であるために、今後に検討を続ける。また、新型シーケンサーを用いて、131系統のミヤコグサ野生系統の全ゲノム解析(約450Mb)を解析したデータセットを揃えて全ゲノム関連解析(GWAS)をゲノム比較によるSNP探索を行なうことができた。そしてこれらのSNPの中からさらに遺伝子上の非同義的置換のみを選抜して、SNPによるタンパクの立体構造(特にB3ドメイン)の変化を推定した。また、早咲きと遅咲きのRILsについてもゲノム比較によるSNP探索を行なって、同様な解析を進めた。
1: 当初の計画以上に進展している
これまでに候補となる開花関連遺伝子の塩基配列をサンガー法ベースで解析して多型を探索することを行ってきたが、今年度は次世代シーケンサーの結果を得て、さらに共同研究体制を拡げることにより、120種類を超える日本各地のミヤコグサ野生系統のゲノム比較を行うとともに、同一圃場実験によって播種から開花開始までの表現型データを取得することが出来た。また、RT-PCRの実験系を立ち上げてデータを得ることが可能になったため、ゲノム比較によって判別できた候補遺伝子の発現を解析することが可能になった。一部で知見が得られ始めており、最終年度の展開にむけて研究レベルを格段に向上させることが出来た。
ミヤコグサ野生系統のゲノム比較の結果をもとにして、早咲き vs 遅咲き の系統の間で分化している遺伝子のアリルごとに、発現量の多少と発現量の日周変化パターンの比較を行う計画である。また、候補遺伝子の遅咲きアリルを早咲きの実験系統のゲノムに組み換えた組み換え体を作成して、開花時期の変化を確認し、候補遺伝子が開花にもたらす効果について検証する。その交配組み合わせについては、ゲノム情報を参考にして8通りを選別した。播種と育成を開始したので、出来るだけ早期に組み換え体の表現型をチェックできるようにしたい。さらに120種類以上の野生系統のゲノム比較において、本年度ではGWASでは候補が得られなかったため、その原因を明らかにしたうえでもう一度、GWASを試行してみる。GWASはオーフス大学(デンマーク)の研究グループと共同で進めているため、連絡を密にとって問題解決を図りたい。
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