研究課題
基盤研究(A)
ユビキチンは,タンパク質分解をはじめとする多様な細胞機能を制御するシグナル分子としての役割を担うが,複数のユビキチン分子が数珠つなぎになったポリユビキチン鎖として機能する例が多く知られる.本研究では,DNAの二重鎖切断(DSB)応答を制御するK63結合型ユビキチン鎖の合成・分解・認識に重要な3種類のタンパク質複合体(OTUB1-Ubc13-Mms2伸長抑制複合体, BRCC36脱ユビキチン化酵素複合体とユビキチン鎖との複合体,RNF168のUMIドメインとユビキチン鎖との複合体)の立体構造を決定し,構造情報に基づいて設計した変異体の機能解析をin vitroおよびin vivoで行うことによって,K63結合型ユビキチン鎖を介したDSB応答のメカニズムを原子の解像度で明らかにすることを目的とする.今年度は,DNA二重鎖切断修復においてK63鎖の伸長を抑制するOTUB1-UBC13-MMS2複合体の結晶構造を決定し,立体構造に基づいた変異体解析の結果と合わせて論文を発表した.また,これまでの報告とは異なり,RNF168のUMIドメインは選択的なUb鎖結合能を持たないことを表面プラズモン共鳴分光法により確認し,さらに,Ub単体との複合体の結晶構造の決定に成功した.UMIドメインとUbとの相互作用様式はこれまでに知られているUb受容体とUbとの相互作用とは異なる新規なものであった.また,DNA損傷応答に関わるFAAP20タンパク質のZnフィンガードメインとUbとの結晶構造決定も行い,新たなUbとの相互作用様式を明らかにした.BRCC36脱ユビキチン化酵素複合体については,3つのサブユニットを混合することで,活性の高い複合体の再構成に成功した.
2: おおむね順調に進展している
研究の対象としている3つの複合体(OTUB1-Ubc13-Mms2伸長抑制複合体, BRCC36脱ユビキチン化酵素複合体とユビキチン鎖との複合体,RNF168のUMIドメインとユビキチン鎖との複合体)のうち,OTUB1-Ubc13-Mms2伸長抑制複合体とRNF168のUMIドメインとユビキチンとの複合体の構造決定を終えた.さらに,OTUB1-Ubc13-Mms2伸長抑制複合体については,立体構造に基づいて変異を導入することで,機能と構造の両面からUb鎖伸長抑制のメカニズムを明らかにした.BRCC36脱ユビキチン化酵素複合体については,構造解析に適する試料調製に向けて,活性の高い複合体の再構成に成功しており,結晶化に向けて着実に進展している.また,DNA損傷応答に関わる新規のユビキチン結合タンパク質としてFAAP20のZnフィンガードメインとユビキチンとの複合体の構造決定にも成功した.
X線結晶構造解析によって明らかになったRNF168のUMIドメインとFAAP20のZnフィンガードメインによるユビキチン認識機構を裏付けるため,部位特異的に変異を導入して,ユビキチンとの結合および細胞内でのDNA損傷部位への集積状況を解析する.BRCC36複合体については,サブユニットの共発現による発現量の改善を試みると共に,脱ユビキチン化活性を指標として変異を導入したり,他の生物種由来のタンパク質を検討することで,結晶化に適する試料調製を行う.試料が得られれば,複合体のみ,および,K63結合型ユビキチン鎖との複合体の結晶化スクリーニングを行う.
すべて 2012
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件)
Journal of Molecular Biology
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