研究課題/領域番号 |
24247030
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
片岡 幹雄 奈良先端科学技術大学院大学, 物質創成科学研究科, 教授 (30150254)
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研究分担者 |
上久保 裕生 奈良先端科学技術大学院大学, 物質創成科学研究科, 准教授 (20311128)
山崎 洋一 奈良先端科学技術大学院大学, 物質創成科学研究科, 助教 (40332770)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | イェロープロテイン / 低障壁水素結合 / 時間分解蛋白質結晶構造解析 / 光反応 / アルギニン / キメラ蛋白質 / FTIR / 国際情報交換 |
研究概要 |
水溶性の光需要蛋白質であるPYPを用いて、共通の構造基盤から機能や光反応の多様性を生み出す分子機構を明らかにすることを目的としている光反応時間が大きく異なるhPYPとRcPYP、存在形態の異なるPprPYPについて研究を進めた。 前年度の野生型hPYPについての100ピコ秒時間分解能の時間分解結晶構造解析の成功を受け、E46Q変異体について時間分解結晶構造解析を開始した。野生型に比べ、光照射に対し結晶が不安定であることなど克服すべき問題が明らかになった。これらに対処しつつ時間分解回折データの収集が順調に行われている。一方、RcPYPの結晶構造解析に世界で初めて成功した。結晶構造解析の結果、βシートがhPYP野生型よりも伸張しており、活性光中間体のX線溶液構造やNMR構造に類似していた。結晶化に際しては界面活性剤の添加が必須であり、結晶の吸収スペクトルは活性光中間体のスペクトルと類似している。また構造中には界面活性剤分子が見出された。光情報変換の理解に重要であると考えられる結果であり、現在構造精密化を進めている。 中性子結晶構造解析で脱プロトン化していると結論したR52の溶液中でのプロトン化状態を詳細に調べ、暗状態で脱プロトン化している可能性が示された。光反応に伴うR52由来のスペクトルの変化およびその酸素同位体効果は、プロトン化したR52では合理的に説明できない。引き続きFTIRによる検証を進める。 hPYPとRcPYPのキメラ蛋白質を用いた研究により、RcPYPの標的蛋白質結合サイトが同定された。また、光反応時間を制御していると考えられる部位を抽出し、関与しているアミノ酸残基が同定された。この結果から、光反応時間の測定がなされていない他のPYPについても光反応時間を推定した。今後この仮説を検証し、光反応時間を決定する要因の理解につなげようとしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
低障壁水素結合とアルギニン52のプロトン化状態の共役性について理解が進んだ。これらの存在に疑問を呈した理論計算があるが、この理論計算で予測される現象や説明を否定する実験結果を複数得ることができた。また、存在を肯定する理論計算の結果の報告もあり、水素結合を含めたこの分野の進歩に大いに貢献していると考えている。 時間分解結晶構造解析についても、変異体に対して適用が始まり、この分野をリードしている。また、これまで多くのグループの挑戦を退けていたRcPYPの結晶化に世界に先駆けて成功し、結晶構造解析ができたことも特筆される。 FTIRにおいても酸素原子の同位体効果を丁寧に測定することにより、アルギニン由来のスペクトルを同定できた。その変化は、このアルギニンが脱プロトン化していると考えると合理的に説明できるが、プロトン化していると仮定すると説明できない。光反応による変化についての同位体効果を精度よく、しかも再現性をもって観測できたことは、PYPのみならず蛋白質のFTIR研究にも貢献する成果である。 これらの結果は、国内外の学会で口頭及びポスター発表あるいは修士論文として発表を行っているが、投稿論文として公表することがやや遅れているのが反省材料である。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画に沿って順調に研究が進展しているので、今後も研究計画に沿って研究を進めていく。時間分解結晶構造解析に関しては、E46Q変異体についての解析を優先し、2年間で構造解析まで行いたい。ビームタイムが限られているので、効率的に実験を進める。低障壁水素結合の存在を確立するために、変異体の中性子結晶構造解析を進めたい。結晶は得ており、JRR3での中性子回折実験の再開を待っている状態である。欧米の中性子回折系では代替が難しく、J-PARC iBIXの利用も考えているが、解析可能なデータ収集には限界があるように思われる。NMRやFTIRにより、低障壁水素結合、R52プロトン化状態の検証を進める。そのための実験条件の整備や同位体を含む試料調整の方法を確立した。 多様性獲得機構の研究には、RcPYPやPprPYPとの比較研究が不可欠である。昨年度までは試行錯誤を繰り返していたRcPYPの結晶化に成功し、構造解析に進んだことは大きな進歩である。またキメラ蛋白質の利用により性質を変化させる部位の同定が進んでいるので、今後はその分子機構の解明に全力を挙げたい。 全長Pprについて、apo-holo体、holo-apo体、holo-holo体の再構成に成功し、apo-apo体とあわせて、構造と機能を研究することが可能になった。PYPドメイン単体と全長Pprの光反応を比較することで、光情報伝達のメカニズムの理解につなげる。これは、共通基盤機構の理解と多様性発現の理解の両目的を同時に研究するよい材料である。 先進的な結果が得られているので、投稿論文としてまとめることにも力を注ぐ。
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