研究課題/領域番号 |
24247034
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
斎藤 春雄 東京大学, 医科学研究所, 教授 (60114485)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | シグナル伝達 / 酵母 / 浸透圧応答 / 4回膜タンパク質 / MAPキナーゼ |
研究概要 |
酵母の浸透圧センサーSho1は4個の膜貫通(TM)領域を持ち、膜中で多量体化する。前年度までに、Site-directed Cysクロスリンク法により、Sho1がTM1/TM4接合面により二量体化しTM2/TM3接合面により三量体化すること、それらの接合が繰り返されることによって多量体を構成することなどを明らかにした。本年度は、システイン間のジスルフィド結合や長さの異なる一群の化学クロスリンカー(chemical ruler)を利用して、より詳細なSho1分子間相互作用マップを作成した。さらに、そのマップを利用しSho1のTM領域の複数箇所において浸透圧によって大きな構造変化が起こることを明らかにした。 浸透圧刺激によってSho1分子の構造が変化すると同時に、Sho1の細胞質領域とアダプタータンパク質Ste50との結合が誘起されることが分かった。この結合により、Ste50に結合しているSte11とSho1に結合しているPbs2との間でリン酸化反応が起こり、Pbs2が活性化される。したがって、この反応はSho1による浸透圧検出の中心的な機構だと考えられる。 浸透圧によるHog1活性化には、Ste50とSho1との相互作用の他に、Opy2とHkr1との結合も必須であることがわかった。この結合には、Opy2の細胞外領域にある、8個のシステインの規則的な配置を特徴とするCysteine rich (CR)領域が関与していた。真菌類で高度に保存されているCR領域の機能はこれまで不明であったが、本研究により、タンパク質結合機能をもつことが明らかになった。 Msb2を介したシグナルにはBem1が必要であることを前年までに明らかにしたが、本年度はHkr1を介したシグナルに必要な因子を探索した。Hkr1に結合するタンパク質を質量分析法で調べたところ、これまでに機能の知られていない細胞質タンパク質がHkr1に特異的に結合することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Sho1のホモ多量体構造の決定は予定通りに進んでいる。Opy2とSho1、Opy2とHkr1、Hkr1とSho1のそれぞれの相互作用についても、順調に解析が進んでいる。Opy2とSho1の結合は構成的であることがわかり、浸透圧ストレスにより誘導されるであろうという可能性は否定された。他方、浸透圧ストレスによりSho1とSte50アダプタータンパク質との結合が誘導されることがわかり、浸透圧による細胞内シグナル生起機構について大きく解明が進んだ。全体としておおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までの実績をもとに、浸透圧によるSho1の構造変化をさらに詳細に検討する。シグナル伝達に影響を与えるような様々なSho1変異体が得られているので、それらの変異が浸透圧刺激によるSho1の構造変化やSho1-Ste50相互作用に与える影響を解析する。また、膜の構造と浸透圧応答に大きな影響を与える抗真菌剤Nystatinなどを利用して、膜の構造変化とSho1の構造変化の関係を解明する。最終的には、Sho1による浸透圧変化検出機構の解明を目指す。 浸透圧制御におけるOpy2膜タンパク質の機能を明らかにする。予備実験から、Opy2 Cysteine rich (CR)領域の8個のシステインは4組のジスルフィド結合を形成することがわかった。したがって、規則的な2次構造をとるものと予想される。本年度はその構造をさらに詳細に解明する。具体的には、Opy2のCR領域の4組のジスルフィド結合のいずれかが出来ないような変異体を利用して、質量分析法により、ジスルフィド結合を作るシステインの組み合わせを決定する。また、Hkr1のHMH領域がOpy2のCR領域に結合することがわかっているので、両者の相互作用の詳細とその浸透圧応答における機能とを明らかにする。 新たなHkr1特異結合タンパク質を見いだしたので、そのSho1経路における機能を、変異体の解析やタンパク質相互作用の解析により明らかにする。
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