研究課題/領域番号 |
24247038
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
藤木 幸夫 九州大学, その他部局等, 特任教授 (70261237)
|
研究分担者 |
田村 茂彦 九州大学, 基幹教育院, 教授 (90236753)
|
研究期間 (年度) |
2012-05-31 – 2017-03-31
|
キーワード | ペルオキシソーム / 神経形成障害 / 代謝異常症 / プラスマローゲン / ペルオキシン |
研究概要 |
本年度は以下のA)およびB)の項目について研究を行った。 A)高次生命機能におけるペルオキシソームの役割とその異常による障害メカニズム 病態モデル動物としてPEX2ナンセンス変異を導入したノックインマウスを既に確立しているが、今年度はこのマウスに加え、薬剤誘導型のコンディショナルPEX2遺伝子ノックアウトマウスの確立にほぼ成功した。ホモノックインマウスの胎仔については、アミノグリコシド系化合物:PTC124を投与することで個体レベルでのナンセンス変異抑制を検証した。これまでのところプラスマローゲンPE合成などの代謝障害を個体レベルで回復させるには至っていないが、今後は投与条件等のさらなる検討を進めていく。ペルオキシソーム機能欠損性グリオーマ細胞における分泌異常因子に関して、マウス脳内における分子動態を解析した。ペルオキシソーム欠損症モデルマウス脳の特定の領域においてこの分泌異常因子に変化が認められることを見出した。現在、この因子の分子動態と中枢神経系の形態異常との関連性ついて検証を進めている。 B)ペルオキシソームにおける代謝機能調節とその障害 Zellweger患者由来線維芽細胞におけるリン脂質の詳細な解析により、プラスマローゲンPEやDHA含有リン脂質の著しい減少を見出した。また、高度不飽和極長鎖脂肪酸のホスファチジルコリンへの蓄積を明らかにし、ペルオキシソーム病患者における病態の重症度との関連性を示した(Abe et al., Biochim. Biophys. Acta-Mol Cell Biol. Lipids 1841: 610-619, 2014)。また、DLP1機能欠損細胞において、多価不飽和脂肪酸を有するリン脂質が減少していることを見出し、DLP1機能欠損はミトコンドリア機能のみならず脂質代謝を担うペルオキシソーム機能に障害を与える可能性を見出した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
病態モデル動物としてペルオキシソーム欠損症患者由来の変異を導入したノックインマウスに加え、コンディショナルノックアウトマウスの確立にもほぼ成功している。ナンセンス変異を抑制する薬剤の作用を個体レベルで検証する実験系の確立に引き続き、今年度は薬剤による効果の検証を進めている。 さらにコンディショナルノックアウトマウスを用いた実験系がほぼ確立されたことから、ペルオキシソーム代謝異常を起因とする障害メカニズム解明に向けた個体レベルでの実験基盤を確立することができた。また、ペルオキシソーム欠損性グリオーマ細胞から神経軸索形成異常の原因となる分泌異常因子の同定から、組織レベルでのその因子の分子動態を解明することができた。このように脳中枢神経系の形態的・機能的な異常との関連性が明らかになりつつあり、病態発症メカニズムの分子基盤の全容解明が期待される。また、ペルオキシソーム病患者における代謝障害と病態の重篤度との関連性を示し、さらにはリン脂質代謝異常と細胞内酸化還元状態の相関を検証するための実験系を新たに確立したことから、当初の計画以上に研究の発展が期待される。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度、新たに確立した病態モデルマウスおよび実験系を駆使することで、ペルオキシソーム形成とその障害によるペルオキシソーム欠損症の発症機構の解明をすべく、新たなアプローチにより研究を推進していく。このような新たな研究展開から、タンパク質の細胞内選別輸送、オルガネラ形成、生体膜形成など現代分子細胞生物学、生化学の命題解明を目指していく。本研究は、形態形成・脳障害のメカニズム解明につながり医学領域への貢献も大きい。また、高等動物ペルオキシソームの形成機構の研究は我々が世界に先駆けて開拓した領域であり、「プロテインキネシス」研究のモデル系の一つとしてもオリジナリティの一層高い成果が期待されている。さらには、Zellweger症候群などペルオキシソーム欠損性先天性代謝異常症の病態モデル動物を活用することで、脳・神経形成や器官形成異常のメカニズムの解明、および病態発症過程とその原因の詳細な解析、さらには(遺伝子)治療法の確立への展開などが期待される。
|