研究課題
本年度は以下のA)およびB)の項目について研究を行った。A) 高次生命機能におけるペルオキシソームの役割とその異常による障害メカニズム病態モデル動物としてPEX2ナンセンス変異を導入したノックインマウスを既に確立しているが、今年度はこのマウスに加え、薬剤誘導型のコンディショナルPEX2遺伝子ノックアウトマウスの確立に成功した。薬剤によるノックアウトの誘導条件について検討し、さらにノックアウト後の記憶と行動の相関に着目したマウス行動実験を行うことでペルオキシソーム形成障害が中枢神経系に与える影響について解析を進めている。次に、ペルオキシソーム機能欠損グリア細胞から見出した異常分泌因子(分泌増加)の遺伝子発現は、ペルオキシソーム欠損症モデルマウス脳内の特定の領域において増加していることを見出した。この領域に着目することで、ペルオキシソーム欠損症の病態発症機構の解明へ向けた解析を進めているところである。B) ペルオキシソームにおける代謝機能調節とその障害ペルオキシソーム欠損症モデルマウスでは、中程度の脂質代謝異常およびZellweger患者と同様の脳の形態異常を示すことを観察した。また、プラスマローゲン欠損症患者由来の線維芽細胞の脂質解析から、中程度のエーテルリン脂質プラスマローゲン減少を見いだすことができた。これらの結果は、脳の機能発現におけるペルオキシソーム代謝の重要性を強く示唆している。さらに、プラスマローゲン依存的にコレステロール合成に必須なスクアレンモノオキシゲナーゼの安定性が制御され、その結果、コレステロールおよび24,25-エポキシコレステロールの生合成量が調節されることを見出した。この結果は、エーテルリン脂質プラスマローゲンがコレステロール生合成調節機構において新規かつ重要な役割を果たしていることを強く示唆しているものである。
2: おおむね順調に進展している
病態モデル動物として、コンディショナルノックアウトマウスの確立に成功し、ペルオキシソーム代謝異常を起因とする障害メカニズム解明に向けた個体レベルでの実験基盤を築くことができた。また、ペルオキシソーム欠損性グリオーマ細胞から神経軸索形成異常の原因となる異常分泌因子の同定およびその遺伝子発現は、ペルオキシソーム欠損症モデルマウス脳内の特定の領域において増加していることを見いだしている。つまり、組織レベルでの病因候補因子の分子動態解明へ発展させることができた。このように脳中枢神経系の形態的・機能的な異常との関連性が明らかになりつつあり、病態発症メカニズムの分子基盤の全容解明が期待される。また、ペルオキシソーム病患者における代謝障害と病態の重篤度との関連性を示し、さらにはリン脂質代謝異常と細胞内酸化還元状態の相関を検証するための実験系を新たに確立したことから、当初の計画以上に研究の発展が期待される。
今年度、新たに確立することができた病態モデルマウスおよび実験系を駆使することで、ペルオキシソーム形成とその障害によるペルオキシソーム欠損症の発症機構を解明すべく、新たなアプローチにより研究を推進していく計画である。このような新たな研究展開から、タンパク質の細胞内選別輸送、オルガネラ形成、生体膜形成など現代分子細胞生物学、生化学の命題解明を目指していく。本研究は、形態形成・脳障害のメカニズム解明につながり医学領域への貢献も大きい。また、高等動物ペルオキシソームの形成機構の研究は我々が世界に先駆けて開拓した領域であり、「プロテインキネシス」研究のモデル系の一つとしてもオリジナリティの一層高い成果が期待されている。さらには、Zellweger症候群などペルオキシソーム欠損性先天性代謝異常症の病態モデル動物を活用することで、脳・神経形成や器官形成の障害や異常のメカニズムの解明、および病態発症過程とその原因の詳細な解析、さらには(遺伝子)治療法の確立への展開などが期待される。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (11件) (うち査読あり 11件、 謝辞記載あり 11件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (13件) (うち招待講演 5件) 図書 (1件)
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