研究課題
私たちヒトを含む多くの真核生物には、雄と雌という二つの性が存在する。雄は小さくて運動性をもつ配偶子(精子)を、雌は大きくて動かない配偶子(卵)を作り、この生殖様式は卵生殖と呼ばれ、真核生物の進化の歴史の中で、同じ大きさの配偶子同士の接合(同型配偶)から独立に複数回、生じたと考えらる。近年陸上植物から、配偶子の融合に働くタンパク質GCS1(GENERATIVE CELL SPECIFIC 1)が発見された(Mori et al. 2006 Nat. Cell Biol.)。GCS1は、高等動植物を含む真核生物の幅広い系統で保存されているため、真核生物に共通する配偶子融合メカニズムの解明の糸口として考えられる。このGCS1は、多くの生物で雄側の配偶子で働くことが知られていましたが、「どのようなメカニズムによってGCS1の働きが雄側に限定されているのか」に焦点を当てた研究はなかった。我々は、二つの性(プラス/マイナス)の間で配偶子のかたちに差異のない同型配偶の緑藻ゴニウム(Gonium pectorale)を用いて、GCS1タンパク質がそれぞれの性で異なった制御を受けていることを明らかにした。ゴニウムでは両性の配偶子は、活性化するとそれぞれ前方部に突起状の構造(接合突起)を伸ばし、両性の接合突起が接着し融合することで接合が始まります。本研究の成果により、マイナス交配型(雄に相当)配偶子では、活性化前はGCS1タンパク質が細胞の前方部(接合突起の原基)に局在し、活性化されると接合突起の表面に移行することが分かった。これに対し、プラス交配型(雌に相当)配偶子では、活性化前はGCS1タンパク質が細胞の内部に留まり、活性化に伴って消失することが分かった。これらの制御メカニズムにより、GCS1はマイナス交配型特異的に働くことができると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
雌雄性は真核生物では同型配偶から多起源的に進化したと考えられるが、配偶子の融合に働くタンパク質GCS1(GENERATIVE CELL SPECIFIC 1)は様々な系統で雄側の配偶子で機能することからGCS1の同型配偶における挙動が雌雄性の根源的なものではないかと予想されるが、これを示す研究を本年度実施することができ、論文も出版された(Kawai-Toyooka et al. 2014, Eukaryotic Cell)。更に群体性ボルボックス目の最も進化した同型配偶生物Yamagishiella と 最も原始的な異型配偶生物 Eudorina の全ゲノム解読も進行し、性特異的ゲノム領域が明らかになった(未発表)。
本年度ゴニウムで見出されたGCS1の挙動の性差は、真核生物における雌雄差の根源的性質である可能性もあり、群体性ボルボックス目の最も進化した同型配偶生物Yamagishiella と最も原始的な異型配偶生物 Eudorina の全ゲノム解読情報も用いて、今後の研究を押し進める予定である。また、群体性ボルボックス目の最も進化した同型配偶生物Yamagishiella と 最も原始的な異型配偶生物 Eudorina の性特異的ゲノム領域から両生物の性染色体領域の全貌を明らかにする予定である。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 謝辞記載あり 6件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 2件)
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