1)姿勢の違いと精神作業が脳を含んだ循環系の全身的協関に与える影響 精神負荷と姿勢の違いが脳血流を含む動的な循環調節に及ぼす影響を男性被験者12名で検討した。座位型と仰臥位型の正弦波下半身陰圧(SLBNP)装置を用いて、静的な重力負荷が異なる条件で、低圧系(心肺受容器)と高圧系(圧受容器)への入力の変化に対する反応特性(ゲイン)の違いという視点からアプローチした。低圧系の指標として、胸部インピーダンス(Z0)を、高圧系の指標として平均血圧 (MAP)を用いた。これらをSLBNPで動的に変化させたときの、心拍数(HR)と中大脳動脈血流速(MCAv)の変化を測定した。姿勢の違いによる影響は、Z0に対するHRとMCAvゲインに認められたが、MAPに対するゲインには認められなかった。一方、精神負荷による影響は、MAPに対するHRとMCAvゲインに認められたが、Z0に対するゲインには認められなかった。低圧系と高圧系の入力が統合されている脳幹にはより高次の中枢からの投射があるが、精神負荷の影響は、高圧系の入力に対する反応に認められ、静的な重力負荷の影響は、低圧系の入力に対する反応に認められた。 2)循環系の全身的協関と脳機能の関連に関する評価指標の検討 音刺激に対する事象関連電位のN100成分振幅が下半身陰圧負荷の変動周期によって影響を受けるという昨年度の実験結果を受けて、さらに、脳の循環動態と脳機能との関連を調べるための評価指標の検討を行った。聴覚信号の脳への入力と循環動態の関連を検討するために、下半身陰圧負荷中に聴性脳幹反応(ABR)を計測する実験系を構築し、計測に成功した。また、精神タスクとしての時間推定タスクと脳機能との関連について、経頭蓋直流電気刺激の有無とタスク成績の関連を調べたが、刺激の有無によって成績に違いは認められなかった。
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