研究課題
基盤研究(A)
本研究「カイコ脳の情報処理を制御する遺伝子群の単離と分子機構の解析」では、カイコの突然変異体と遺伝分析・トランスクリプトーム解析等によって、脳と神経系における環境情報の処理と神経活動のパターンを制御する鍵遺伝子を発見するとともに、情報処理の遺伝子ネットワークを解明することを目的としている。(1)カイコの環境応答変異体(化性変異)の解析:Lm遺伝子はカイコが日長や温度を感受し、次世代を休眠させるか否かを脳に判断させる遺伝子で、Z染色体に座乗する。戻し交雑を繰り返すことにより、Lm(e)変異型遺伝子をもつカイコ品種「輪月」のゲノムに、支108号のLm(+)遺伝子の周辺の染色体領域を置換したコンジェニック系統を作出した。この系統を用いて、Lmの候補遺伝子を探索している。(2)カイコの化学刺激応答変異体の解析:カイコの変異体spliは化学刺激への応答が異常である。spliの脳のトランスクリプトームを次世代シークエンサーによるRNA-seq解析により明らかにし、正常な個体のものと比較した。その結果、かなり多くの遺伝子にmRNA発現量の差異が認められることが判明した。(3)カイコの産卵行動の変異体"xu20"の解析:多くの昆虫では、雌は交尾するまで産卵を抑制しており、交尾が成立して精液を受入れると産卵行動が始まるようにプログラムされている。カイコでは、有核精子が雌の膣前庭の神経を刺激することで行動プログラムが切り替わる。今年度は、未交尾状態で産卵行動が抑制されず、羽化後ただちに産卵を開始してしまう変異体「xu20」を用い、この形質を支配する遺伝子を染色体へマッピングした。
2: おおむね順調に進展している
従来分子レベルで未同定であったLm遺伝子とxu20遺伝子の両者について、連鎖解析で遺伝子が特定できる可能性が見えてきている。またトランスクリプトーム解析による遺伝子作用の解析も順調に進んでいる。
光周反応を支配するLm遺伝子の単離と機能証明へ向けて努力する。xu20遺伝子の単離へ向け、染色体上での位置の絞り込みを行う。食性遺伝子の脳での機能を、RNA-seqのみならず個別遺伝子の機能解析へ深めてゆく。
すべて 2013
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (2件)
Insect Biochemistry and Molecular Biology
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