研究課題
山岳氷河から得られた掘削雪氷試料中の古代花粉のDNA分析によって、過去に分布した樹木の遺伝的情報を直接取得し、樹木個体群の分布変遷史を時空間的に明らかにする研究の基礎技術開発に取り組んだ。まず、花粉一粒のDNA分析技術開発用試料として、ロシア・アルタイ山脈にあるベルーハ氷河から採取した表層積雪中のマツ属花粉を用いた。本研究では、花粉に含まれるゲノムDNAを全ゲノム増幅法によって増幅し、葉緑体DNAの塩基配列解析を行った。その結果、配列データを用いて花粉種の候補を絞りこむことに成功した。また、花粉1粒ずつから特定の領域をPCR増幅して情報を得る方法では、約150BPの葉緑体DNA断片を増幅し、得られた配列によって節レベルでの識別まで可能なことを示した。この成果は学術雑誌Environmental Research Lettersに発表した(Nakazawa et al. 2013)。関連した技術開発に関する研究成果として、スカンジナビア中部の湖底堆積物を分析用試料として用い、その花粉分析、すなわち花粉の外部形態によって分類群を識別する分析法と、メタ・バーコーディング解析、すなわち汎用性のあるPCRプライマーを用いて堆積物等から抽出したDNAをテンプレートとしたPCR増幅を行いてその配列によって分類群を推定する方法について、両手法の結果の比較を行った。この成果をとりまとめて学術雑誌Molecular Ecologyに発表した(Parducci et al. 2013)。さらに、パーソナル次世代シーケンサーによる花粉DNAの網羅的解読手法の基礎技術開発に取り組んで新たな手法をほぼ完成させた。
3: やや遅れている
基礎技術開発については順調に成果をあげつつあるが、パーソナル次世代シーケンサーを用いた分析の基礎技術開発に予定より時間がかかってしまったため、実際に次世代シーケンサーを用いて花粉DNAの情報を得るところまでには至っていない。
全ゲノム増幅およびパーソナル次世代シーケンサーによるDNA 断片の網羅的解読手法はほぼ確立できたため、今後はこれらの基礎技術を用いて、いよいよ山岳氷河から得られた掘削雪氷試料中の古代花粉のDNA分析に着手する。
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Molecular Ecology
巻: 22 ページ: 3511-3524
10.1111/mec.12298