研究実績の概要 |
山岳氷河から得られた雪氷試料中に存在する花粉のDNA分析によって、過去に分布した樹木の遺伝的情報を直接取得し、樹木個体群の分布変遷史を時空間的に明らかにしようとする研究に取り組んだ。 まず、ロシア・アルタイ山脈にあるベルーハ氷河から採取した表層積雪中のマツ属花粉を用い、花粉に含まれるゲノムDNAを全ゲノム増幅法によって増幅して複数領域のDNA分析に用いる基礎技術を完成させた。すなわち、全ゲノム増幅法によって増幅したゲノムDNAをテンプレートとして複数領域の葉緑体DNAの塩基配列解析を行い、その配列データを用いて、花粉種の候補を数種にまで絞りこむことに成功した。これらの手法について論文としてまとめ、現在投稿中である。 また、次世代シーケンサーを用いてゲノム全体から網羅的に塩基配列を得る新手法を開発し、「MIG-seq(Multiplexed ISSR Genotyping by sequencing)法として論文発表した(Suyama and Matsuki, 2015; Scientific Reports 5, 16963)。この手法では、従来の一般的な次世代シーケンシングによるゲノム変異分析とは異なり、ごく微量の鋳型DNAであっても分析が可能であるため、花粉DNAを対象とした分析に用いることが可能である。そこで、この手法を用いて上記の全ゲノム増幅後の表層積雪中マツ属花粉DNAの分析を行った。その結果、約半数のサンプルからマツ科の塩基配列が確認され、この手法が有効であることが示された。
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