研究課題/領域番号 |
24248027
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大手 信人 東京大学, 農学生命科学研究科, 准教授 (10233199)
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研究分担者 |
堀田 紀文 筑波大学, 生命環境科学研究科(系), 准教授 (00323478)
大橋 瑞江 兵庫県立大学, 環境人間学部, 准教授 (30453153)
尾坂 兼一 滋賀県立大学, 環境科学部, 助教 (30455266)
杉山 裕子 兵庫県立大学, 環境人間学部, 准教授 (40305694)
村上 正志 千葉大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (50312400)
西田 継 山梨大学, 医学工学総合研究部, 准教授 (70293438)
田野井 慶太朗 東京大学, 農学生命科学研究科, 准教授 (90361576)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 森林生態 / 生態系保全 / 放射性セシウム / 集水域 / 物質循環 / 食物網 / 生物濃縮 / 浮遊粒子状物質 |
研究概要 |
① 森林・河川調査サイトにおいて定期観測と伐倒調査を実施/ 阿武隈川水系小国川集水域において、森林サイト、渓流・河川試料採取ポイントにおいて月一回の定期観測・試料採取を行った。流量観測は、流程で3カ所で行った。採取した試料は以下の通りである: 降下物(林内外雨)、河川水、樹冠部生葉、リター、土壌、河川水中の浮遊土砂。これらの試料について以下のような分析を実施した。降水、土壌水、渓流水については、137Cs、溶存態の栄養塩、DOC(溶存有機態炭素)。河川水については浮遊粒子状物質濃度。リター、土壌、浮遊土砂、河床堆積物については炭素、窒素、137Cs濃度。 ②立木伐倒調査を実施/11月初旬に伐倒調査を実施し137Csの部位別分析のための立木試料の採取を行った。 ③ 森林内、渓流、中流河川における食物網構造の把握/ 生物試料を採取、窒素の安定同位体比を測定し、各機能群の平均的な栄養段階を評価した。森林サイトでは、渓畔の草本、木本の生葉、植食性昆虫、土壌動物、クモ類、トカゲ・ヘビ類、鳥類。渓流・中流河川部: 河床の藻類、水生植物、流下有機物(落葉等)、水生昆虫、エビ・カニ類、魚類等。 ④ 生物群集の137Cs現存量の推定/ 採取した生物試料はすべて137Cs濃度を測定し、食物網のどの段階に影響が及んでいるかを調査した。生物群集を対象とする調査は6月以降、毎月1回行った。 以上の調査の結果、以下のことが明らかになった。1) 樹冠から林床への137Csの移動が依然として顕著であること、2) 森林からの流出137Csは、平水時は極めて少なく、降雨-出水時に著しく増加すること、3) 食物網の中では、生食連鎖系よりも腐食連鎖系の方が先に137Csの伝播が進んでいること。4)栄養段階が上がっても137Csの濃度上昇は見られず、 生物濃縮が生じていないこと。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
上記、研究実績概要に示したように、現地森林サイト、渓流・河川におけるモニタリング、試料の採取は当初の予定通り進んでおり、森林・河川生態系における現状の137Csの蓄積や移動・流出の実態が明らかになってきた。また、生物群集への移行についての全体像の把握をすることができた。特に生物群集の食物網を介した放射性セシウムの拡散に関して得られた知見は画期的で、Nature publishing groupが刊行するScientific Reportに掲載された。この記事は、Nature Japanの「注目の論文」に選ばれた。また、これらの内容を含めて現在得られている調査結果は、日本学術会議公開シンポジウム 福島原発事故による放射能汚染と森林・木材Part II、早稲田大学で開催された、震災復興・国際シンポジウム 東日本大震災・福島原発事故から3年~原子力安全規制の今後のあり方と福島復興を考える~において、一般市民に向けて公開・発表された。これらの成果とその公表は当初計画以上の進展を示している。
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今後の研究の推進方策 |
先年度行ってきたモニタリングは引き続き実施し、加えてデータ公開を実施していく。詳細は以下のとおりである。 ① 森林における蓄積量、森林から河川への流出量のモニタリング/ 降水量(林内外雨量)、渓流・河川流量を、上、中、下流3地点で観測を実施する。以下の試料を採取する。 降下物(林内外雨)、河川水、樹冠部生葉、リター、土壌、河川水中の浮遊土砂、河床堆積物。 降水、土壌水、渓流水については、137Cs、溶存態の栄養塩、DOC(溶存有機態炭素)、SiO2濃度を測定する。河川水については浮遊粒子状物質濃度を測定する。また、リター、土壌、浮遊粒子状物質、河床堆積物について、炭素、窒素、137Cs濃度を測定する。 ② 森林内、渓流、中流河川における食物網構造の把握/ 下記の生物試料を採取、炭素・窒素の安定同位体比を測定し、各機能群の平均的な栄養段階を評価する。森林サイトでは渓畔の草本、木本の生葉、植食性昆虫、土壌動物、クモ類、トカゲ・ヘビ類、鳥類。渓流・中流河川部では、 河床の藻類、水生植物、流下有機物(落葉等)、水生昆虫、エビ・カニ類、魚類 ③ 生物群集の137Cs現存量の推定/ 生物試料はすべて137Cs濃度を測定し、食物網のどの段階に影響が及んでいるかを把握する。各機能群のバイオマスの推定値から、それぞれの機能群ごとに137Csの現存量を推定する。調査は原則季節ごとに年間4回行う。 ④ 森林植生への137Cs移行調査/ 10月に森林サイトのプロットにおいて、毎木調査を行うと同時に、主要高木の伐倒試料採取を行う。試料は樹体の各部位ごとの137Cs濃度を測定する。 ⑤ 水文過程・生物群集における137Cs流出現存量モニタリングのデータベース構築/ 上記データは整理後JaLTER(日本長期生態学研究ネットワーク)データベースサーバに格納していく。これによって、データを国内外に向けて公開していく。
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