研究課題/領域番号 |
24248033
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
足立 伸次 北海道大学, 水産科学研究科(研究院), 教授 (40231930)
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研究分担者 |
荒井 克俊 北海道大学, 水産科学研究科(研究院), 教授 (00137902)
都木 靖彰 北海道大学, 水産科学研究科(研究院), 教授 (10212002)
平松 尚志 北海道大学, 水産科学研究科(研究院), 准教授 (10443920)
山羽 悦郎 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 教授 (60191376)
井尻 成保 北海道大学, 水産科学研究科(研究院), 准教授 (90425421)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | チョウザメ / 性統御 / 生殖 / 遺伝育種 / 養殖 |
研究実績の概要 |
1.分子機構解析研究 今年度は、ロシアチョウザメおよびアムールチョウザメの形態的未分化生殖腺におけるcyp19a1a、hsd17b1、foxl2、dmrt1、gsdf、amhなど、卵成長期の卵濾胞におけるZP様卵膜関連遺伝子など、卵成熟・排卵期の卵濾胞におけるrasd1、nr4a1、star、mmp9、ptgs2等のステロイド合成や排卵関連遺伝子など、肝臓における卵黄前駆タンパク(ビテロゲニン)のcDNAクローニングおよび発現定量解析を行なった。孵化後4カ月前後の形態的未分化生殖腺では、cyp19a1aおよびhsd17b1発現の二型性がみられたが、gsdfは孵化後9カ月前後の形態的未分化生殖腺ではじめて二型性がみられた。生体外卵濾胞培養実験から、卵成熟過程に先立ち、卵母細胞は卵成熟能を、卵濾胞は卵成熟誘起ステロイド(MIS)の刺激により排卵し得る能力(排卵能)を順次獲得することが明らかになった。卵濾胞の排卵能はサケ脳下垂体抽出物を培養液に添加することで誘導でき、その際、mmp9、ptgs2発現が増加する傾向がみられた。昨年報告したアムールチョウザメの新規ビテロゲニン(Vtg)を加えた合計3種Vtg1, 2, 3の配列を決定し、リコンビナントVtg1と2を作製した後、これらを家兎に免疫して抗体を作製した。これら抗体は血清中にそれぞれ異なる分子量のVtgを認めた。
2.生殖統御技術開発研究 純系種シロチョウザメの採卵、授精に成功した。また、新たにトラカル(シロチョウザメ×ダウリアチョウザメ)が作出できた。 一昨年作出されたベストラ(ベステルxシロチョウザメ)2倍体および3倍体について、組織観察により妊性について検討した結果、雑種2倍体の雌では卵母細胞が周辺仁期に達した個体はほとんど認められなかったが、雑種3倍体では周辺仁期まで成長した多数の卵母細胞が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.分子機構解析研究 形態的未分化生殖腺では、エストロゲン合成に関与するcyp19a1aおよびhsd17b1は比較的早くから卵巣形成に作用するが、gsdfはそれらより遅れて形態的精巣分化直前に作用すると推察された。しかし、ESTdbからは今回調べたgsdfと異なるgsdf様配列も得られており、gsdfのタイプごとの発現および機能解析は今後の課題である。また、孵化後9か月目の形態的未分化生殖腺における遺伝子発現を網羅的に解析し、将来雌特異的に発現がみられた約300個の性連鎖候補配列について、ゲノムにおける性連鎖性の検証を行なったが、性連鎖性は確認されなかった。卵濾胞獲得に関する生体外実験により、コラゲナーゼであるmmp9およびプロスタグランジン産生酵素であるptgs2は、生殖腺刺激ホルモンの刺激により卵濾胞で排卵能を獲得する際に重要な役割を果たすと思われた。 生殖腺および肝臓のESTdbに加え、ゲノムデータベース作成を試みた。アムールチョウザメ雌のペアエンドDNA-seqを行ない、膨大なゲノム配列を得ることができた。
2.生殖統御技術開発研究 チョウザメ類では、染色体倍数性変異によりゲノムサイズが異なるグループが存在しており(例えば、グループA:DNA量 約4pg、オオチョウザメ、コチョウザメ;グループB:DNA量 約8pg、シロチョウザメ)、ゲノムサイズが同じ種間の雑種2倍体は妊性を持つが、3倍体は雌が不妊となることが知られている。ゲノムサイズが異なる種間の雑種2倍体では卵巣発達がみられないという結果も得ている。今回、ベストラ2倍体および3倍体について、組織観察により妊性について検討した結果、ゲノムサイズ(≒染色体数)が異なる雑種2倍体雌個体は不妊となるが、雑種3倍体は妊性を有することが示唆されるとともに、染色体操作によるチョウザメ新品種作出の可能性が示された。
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今後の研究の推進方策 |
1.分子機構解析研究 引き続きクローニングおよび詳細な発現解析を進め,各ステージに特徴的な発現マーカーの確立を目指す。また、孵化後9か月目の形態的未分化生殖腺における遺伝子発現を網羅的に解析し、将来雌特異的に発現がみられた約300個の性決定遺伝子候補配列について、ゲノムにおける性連鎖性の検証を行なったが、性連鎖性は確認されなかった。今後は、(1)より早期の形態的未分化生殖腺を用いた発現解析、(2)性分化関連遺伝子の変異解析およびSNPマーカーによるゲノム連鎖解析、(3)性分化関連遺伝子プロモーター領域の変異解析を行なう必要がある。
2.生殖統御技術開発研究 早期成熟個体の作出には選抜育種や交雑あるいは異種間生殖細胞移植(借腹養殖)が有効である。昨年度に引き続き、可能な限り純系種および交雑種を作出し、早期成熟雄個体を選抜する。これまでに、染色体操作実験と組織観察により交雑種の妊性について検討したところ、両親のゲノムサイズが異なる種間交雑個体では不妊となるが、ゲノムサイズが同程度の種間交雑個体では妊性を有することが示唆された。今後もサンプル数を増やして種間交雑と妊性の関係についてさらに検証を重ねる。また、遺伝学的手法(DNAマーカーの解析)と細胞遺伝学的手法(FISH、GISH)を用いて、種間のゲノム量変異のみならず、種内でも生じるゲノム量変化(遺伝的な3倍体の出現)の出現機構解明を目指す。また、チョウザメ神経胚から始原生殖細胞を単離し、異種胚に移植する。 チョウザメはZZ/ZW型性決定をすることが示唆されており、我々は既に数種のチョウザメで遺伝的雌(ZW)の雄化処理(偽雄づくり)を行なっている。今後も、雌性発生および偽雄候補魚を用いて授精を行ない、子孫第1世代をさらに雄化処理することでWW超雌偽雄の作出を目指す。
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