研究課題/領域番号 |
24248048
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研究種目 |
基盤研究(A)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田中 智 東京大学, 農学生命科学研究科, 准教授 (90242164)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 栄養膜幹細胞 / LIN28A / RNA結合タンパク質 |
研究概要 |
RNA結合タンパク質LIN28Aは、そのパラログであるLIN28Bと共に胚性幹細胞で発現する。マウス栄養膜幹細胞(TS細胞)においてもLIN28Aは未分化時特異的に発現するがLIN28Bはほとんど発現していない。LIN28Aの発現はその他の幹細胞や未分化細胞でも認められるが、LIN28Bが発現していないTS細胞における機能は特に興味深い。本研究は、TS細胞におけるLIN28Aの生理的機能を明らかにすることを目的とする。 本年度は、まず、抗LIN28A抗体を用いたRIP-seqの予備検討を行った。文献上RIP-seqに用いられた実績のある抗体が日本国内では販売されておらず輸入も不可能であったため、複数の抗体を購入し、その特異性やRIPへの有用性を比較検討した。その結果、ES細胞抽出液を用いておこなったパイロット実験により、LIN28A結合RNAとして報告されているRNAが、2種類の市販抗体で濃縮されることを確認した。 テトラサイクリン(Tc)応答性のLIN28A発現抑制TS細胞クローンの作製は難航している。すでにTetリプレッサー遺伝子を導入したTS細胞クローンは複数樹立したが、Tc応答性を確認した結果期待通りの応答性を示すものが存在しなかった。そこでその原因を追及すると共に、Lin28a mRNAに対するshRNAの発現ベクターを導入したTS細胞の樹立を進めた。現在10以上のクローンを得、shRNAの発現とノックダウン効率などの確認を進めている。 最後に、TS細胞の分化が血清成分により左右されることがわかったため、新たに血清代替物(KSR)を用いた無血清培養条件の確立を試みた。その結果、細胞外基質でディッシュをコートし、さらに培地に2種類の化合物を加えることで、未分化TS細胞の維持が可能な条件を見出すことに成功している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画では抗Lin28A抗体を用いたRIP-seqを本年度中に行う予定であったが、抗体の入手やその有用性の比較検討に手間取ったため、来年度に持ち越すこととなってしまった。しかし、ES細胞を用いたパイロット実験による予備検討では、既報でLin28A結合RNAであることが報告されているPou5f1 mRNAが、抗LIN28A抗体を用いた免疫沈降後確かに濃縮されていることを確認済みであり、RIP-seqの準備は整っている。 TS細胞の無血清培養条件の確立は大きな前進である。TS細胞を未分化のまま継代維持するためには、マウス胎仔繊維芽細胞の培養上清(MEF-CM)に含まれる因子とFGF4が必須である。またMEF-CM因子はActivinAで代替可能であることが報告されている。しかし、血清存在下のTS細胞培養では、未分化FGF4とMEF-CMを添加した条件であっても、自発的に分化する細胞が一定の割合で出現してしまう。またその逆に、FGF4を培地から除いて分化を誘導しても、一定期間FGF4活性が残存し、TS細胞の分化に影響をおよぼすことが明らかとなった。これらは、血清に含まれる因子、および、MEF-CMに含まれる因子がTS細胞の分化に影響していることを示している。本年度確立した無血清培養条件ではMEF-CMも用いないため、上述のような未同定因子の影響を考慮する必要が全くない。また、血清成分による影響を受けないため、細胞外基質とTS細胞分化能の関係も詳細に解析することが可能となった。無血清培養条件下でもTS細胞に比較的効率良く遺伝子を導入できることも確認済みであり、遺伝子操作が可能である。このように、TS細胞の無血清培養条件の確立により、より精細な培養条件の制御が可能となり、TS細胞分化機序の解明に大きく貢献することが期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
基本的に、当初計画に沿った研究を継続して推進する。まず、抗Lin28A抗体を用いたRIP-seqについては、パイロット実験で検討・決定した条件を適用し、速やかに実施する。既にその準備は進められており、明治大学農学部講師・大鐘潤博士の協力を得て、次世代型シークエンサーを用いた解析を開始する予定である。 また、今年度に確立した、無血清培養条件下でのTS細胞の自発的分化過程における分化細胞の出現機序を詳細に解析し、TS細胞分化機序の新たなリファレンスを作成する。さらに、血清存在下でTS細胞の分化方向に影響を及ぼすことが報告されている種々の因子(レチノイン酸、アクチビンなど)やそのシグナル阻害剤などの無血清培養条件下における影響、および、無血清培養に必須であった細胞外基質(フィブロネクチン、ラミニン)の分化への影響も合わせて解析する。
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