マウス栄養膜幹細胞(TS細胞)において、RNA結合タンパク質であるLIN28Aは未分化時特異的に発現するが、そのパラログであるLIN28Bはほとんど発現していない。LIN28AとLIN28Bの発現は胚性幹細胞(ES細胞)でも認められるが、LIN28Bが発現していないTS細胞における、LIN28Aの生理的機能は特に興味深い。 本年度は、昨年度に引き続きLIN28AノックダウンTS細胞株の樹立を試み、ノックダウン効果が十分認められる安定形質転換株(KD株)を複数得た。昨年度解析した1ラインに、更に2ラインを加え遺伝子発現を解析すると、いずれのKD株においても、TS細胞の未分化マーカーであるCdx2、および、Sox2の発現が有意に低下しており、LIN28Aがこれらの遺伝子発現の安定化に関わるという結果が得られた。ただし、いずれのラインも分化マーカーの発現が有意に上昇していないことから、未分化状態は維持されていると判断された。実際に、TS細胞の未分化維持に必要な因子であるFGF4を除くことで分化を誘導すると、KD株における分化マーカーの上昇が認められた。RNA-seqによるトランスクリプトーム解析においても、野生型TS細胞と非常によく似た遺伝子発現パターンが維持されていることが判明した。 興味深いことに、KD株はいずれも野生型TS細胞に較べ増殖速度が遅く、また、分化誘導直後の生存率が著しく低下していた。LIN28Aは、未分化TS細胞の増殖や、分化細胞の生存に関わる遺伝子産物の発現調節に関与することが示唆される。トランスクリプトーム解析では、インプリント遺伝子であるMestを含む一部の遺伝子発現の、KD株における顕著な低下が認められた。これら複数の遺伝子産物の発現量調節が、TS細胞の増殖活性に重要であることが示唆される。
|