研究課題/領域番号 |
24248050
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研究種目 |
基盤研究(A)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
堀 正敏 東京大学, 農学生命科学研究科, 准教授 (70211547)
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研究分担者 |
藤澤 正彦 日本獣医生命科学大学, 獣医学部, 講師 (10508873)
堀口 和秀 福井大学, 医学部, 講師 (20377451)
道下 正貴 日本獣医生命科学大学, 獣医学部, 講師 (50434147)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 炎症 / 免疫 / ニコチン受容体 / マクロファージ / 消化管 / 迷走神経 / セロトニン / 腸炎 |
研究概要 |
初年度は、術後腸麻痺モデルマウスを用いてα7nAChRを介した抗炎症作用機序について解析した。α7nAChR選択的作動薬であるPNU-282987は、術後腸麻痺モデルにおけるマクロファージ浸潤を顕著に抑制したが、好中球の浸潤を抑制しなかった。また、α7nAChR KOマウスにおいてPNU-282987のマクロファージに対する抗炎症作用は消失した。一方、5-HT4R作動薬であるモサプリドは術後腸麻痺におけるマクロファージと好中球の浸潤を共に抑制し、α7nAChR KOマウスではマクロファージ浸潤抑制のみが消失した。これらの成績から、α7nAChRの活性化はマクロファージ浸潤抑制のみに関与すること、5-HT4Rの活性化はα7nAChRを介してマクロファージ浸潤を抑制するが、それ以外の経路で好中球浸潤抑制を抑制することが示唆された。さらに、α7nAChR作動薬PNU-282987の化学構造の一部は5-HT3Rに親和性を持つことが報告されていることから、5-HT3R 阻害剤であるオンダンセトロンの術後イレウスに対する作用を検討した。結果、オンダンセトロンは術後イレウスにおけるマクロファージ浸潤と好中球浸潤の両者を共に抑制する抗炎症作用を持つことを見いだした。来年度以降、5-HT3R阻害剤の抗炎症作用とα7nAChRとの関連性についてさらに解析を進める。 α-ブンガロトキシン(α-BTX)はα7nAChRに高い親和性を持つ天然毒であり、α7nAChRの活性を阻害する。FACSを用いた解析において術後イレウスモデルにおける消化管壁から調整した細胞群からα-BTX陽性の細胞分画を得るに至らなかった。今後、α7nAChRを発現する標的細胞を同定するために、α-BTXを用いた詳細な実験条件設定をする必要がある。その上で家畜における消化管炎症時のα7nAChRの病態生理学的解析を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
α7nAChR KOマウスの繁殖が平成24年11月頃から低下し、十分なKOマウスを用いた解析ができずに、一部の実験を4月以降に繰り越すことにし、繰り越し申請を申請した。しかしその後、KOマウスを用いた解析は順調に進み、結果としてα7nAChRを介した抗炎症作用はマクロファージ浸潤抑制に限局されるという新知見を得た。一方、α-BTXは世界で選択的にα7nAChRに親和性を持つ天然毒として使用されているが、α7nAChR KOマウスにおいても術後イレウス病変部にα-BTX親和性の炎症担当細胞が出現することを見いだした。従って、急遽、このα-BTX親和性細胞を同定する必要性が生じた。予想外の計画項目であるが、α-BTXをツールとしてこの先研究を推進する計画を当初から立てていたことから、H25年度に十分な時間を割いて解析する必要がある。これに伴って、家畜の消化管疾患におけるα7nAChRの病態生理学的解析を蛍光ラベルしたα-BTXを用いて行うことができない状況となり、来年度に研究をスタートさせる目処を立てる。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に生じた問題として、α7nAChRに高親和性とされているα-BTXの、α7nAChRに対する選択性について十分な再検討を行うことが挙げられる。α7nAChRの抗体は世界で多数作られているものの、その特異性について疑問視されていることから、α-BTXを利用できるか否かは重要な課題と考えている。この問題点を解決した上で、家畜の消化器疾患でのα7nAChR発現動態解析などを行っていく。 選択的α7nAChR作動薬の化学構造はいずれも5-HTRへ親和性を持つ化学物質を元に合成されていることが解り、一部の5-HT3R阻害剤はα7nAChR作動薬として働くことが報告された。複数の5-HT3R阻害剤が術後イレウスモデルにおいて強力な抗炎症作用を持つことを初年度に見いだしたことから、次年度以降、α7nAChRと5-HT3Rとの関連性について解析を進める。その一端として5-HT3aR KOマウスの購入し解析に利用する計画を考えている。 初年度の特筆できる研究成果として、α7nAChRの活性化は炎症におけるマクロファージ浸潤に対して特異的に抑制作用を示し、好中球浸潤には全く作用しないことを見いだした。これまで、α7nAChRを介した抗炎症作用においてこのような報告は皆無であり、世界で初めての知見といえる。次年度以降、α7nAChRの活性化によるマクロファージ浸潤抑制を引き起こす分子機構を解明する。現段階の仮説としては、炎症局所においてマクロファージなどの炎症応答細胞に発現するα7AChRに直接作用している可能性と、迷走神経刺激による求心性刺激が脾臓でのα7nAChRを発現するマクロファージに作用し、その後血流を介して炎症部位に浸潤して抗炎症作用を発揮する可能性が考えられ、今後、迷走神経切除や脾臓摘出などの手法を用いてこの点を明らかにする必要がある。
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