研究課題/領域番号 |
24248055
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
松田 浩珍 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (80145820)
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研究分担者 |
田中 あかね 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (80418673)
松田 彬 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 研究員 (90613969)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | トランスレーショナルリサーチ / 動物 / 酵素 / ストレス |
研究概要 |
アトピー性皮膚炎(AD)における病態解析は、免疫学的手法から皮膚科学的手法へと移行しつつある。皮膚における様々な防御因子(バリア構成因子)の産生や分解は、良く統合された酵素反応のラダーによって支配されている。酵素反応は温度やpH により鋭敏に影響を受け、その活性が制御される。 平成25年度は、アトピー性皮膚炎自然発症モデルNC/Tndマウスを用いて、発症前後の皮膚のpH 変化を解析した。正常マウスの皮膚pHは、5.5前後であり、弱酸性を呈している。また週齢が若いほどpHは6に近く、週齢が増えるに連れてpHはより弱酸性となる。NC/Tndマウスも、皮膚炎を発症しないSPF環境で飼育されていると、正常な対照マウスと同様のpHを示していた。しかしながら、空気清浄を行っていないコンベンショナル環境で飼育されたNC/Tndマウスでは、皮膚炎が発症する7週齢より以前から皮膚pHは有意に上昇し、6.5前後となることが明らかとなった。このとき、皮膚に存在するセラミド合成酵素(酸性スフィンゴミエリナーゼやβ グルコセレブロシダーゼ)の活性が低下し、セラミド分解酵素セラミダーゼやセリンプロテアーゼ(カリクレイン)の活性が増加することが明らかとなった。また、皮膚炎を発症していないSPF NC/Tndマウスにアルカリ性の溶液を塗布して皮膚pHを上昇させると、経皮水分蒸散量が増加し、引っ掻き行動が惹起され、これに伴って皮膚炎が誘発されることが明らかとなった。さらに、皮膚炎を発症しているコンベンショナルNC/Tndマウスの皮膚を弱酸性化すると、引っ掻き行動が減少して、アレルギー性炎症が緩和され、臨床症状が減弱した。このことは、皮膚のpH変化により、アトピー性皮膚炎が悪化したり改善した入りすることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、代表者が発見し数多くの研究成果を提供してきたAD モデルNC/Tnd マウスを用いて、pH 変化による皮膚酵素反応の変動を解析し、皮膚バリア修復不全の分子メカニズムを解明しようとしている。とくに平成25年度は、アトピー性皮膚炎の病態発現と皮膚pH変化の関連を明確化するとともに、pHに着目した皮膚炎の制御法を見つけること、および皮膚pHの変化に伴い皮膚でおこる分子生物学的な事象を解析することができ、アトピー性皮膚炎の緩和療法の基礎となる情報を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
皮膚pHの変化に伴うセリンプロテアーゼおよびその内因性阻害因子の発現変動を調べ、分子生物学的に掘り下げる。またこれらの事象がどのようなメカニズムで免疫系を活性化しアレルギー性炎症を局所に惹起するのかを明らかにする。これらの情報をもとに、新たなアトピー性皮膚炎の制御法を提唱する。研究成果は論文として取りまとめて国際的学術雑誌に掲載するとともに、国内外の学術集会で発表し、広く成果を発信する。
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