研究課題
基盤研究(A)
■産業動物は、ヒトと同じく多くの環境化学物質に曝露されており、化学物質による急性中毒や慢性曝露による病態が報告されている。産業動物の化学物質汚染は食の安全に直結する重要な問題でもあるが、一方で、ヒトや実験動物以外で化学物質の感受性の種差や個体差に関する研究は極めて少なく、これがケミカルハザードを引き起こす大きな原因の一つとなっている。本研究では、国内外の産業動物種が有する化学物質への生体防御機構と、化学物質感受性の種差や個体差を引き起こしている要因を明らかにし、研究基盤を構築すること、また、この研究基盤を生かし、化学物質を速やかに排泄する為の機能性飼料や、尿などを用いた新たなモニタリング方法を確立することを目的とした。■平成24年度はPhase-I酵素としてシトクロムP450、Phase-II酵素としてグルクロン酸転移酵素(UGT)、硫酸転移酵素(SULT)、グルタチオン転移酵素(GST)およびこれらの酵素の発現小説因子について、産業動物におけるその特性を明らかにすることとした。特に外来異物にかかわるP450分子種のうちCYP1からCYP3ファミリーに関する酵素のクローニングを産業動物から行い、その遺伝的な特性等を明らかにした。また、環境汚染物質のモデルとして多環芳香族であるピレンに着目し、その解毒排泄における動物種差を明らかにした。また実際に産業動物にどのような環境汚染物質が蓄積をしているのか、化学物質のサーベイランスを行った。残留性の高い有機ハロゲン化合物や重金属類を中心に分析した。
2: おおむね順調に進展している
今季の研究では、これまで家畜で明らかになっていなかった薬物代謝酵素群に関して、その遺伝的な特徴や機能について明らかにした。鳥類ではシトクロムP450やPhaseII酵素について次世代シークエンサーを用いた網羅的な解析を行い、初めてその全貌を明らかにすることができた。この結果は家畜にとどまらず、広く野生動物のニッチをしめる鳥類に応用可能な結果となっており、環境の化学物質がこれらの週に及ぼす影響に関して新たな知見を得ることができた。また、我々の研究により、これまでに毒性学の教科書に記載されてきたブタをはじめとする家畜の薬物代謝酵素にかかわる記述が誤っていることも初めて明らかとなった。さらにウシ、ウマ、ヤギ、ブタ、ニワトリの産業動物を中心に化学物質の解毒排泄の特徴について、抱合体の排泄パターンを明らかにすることができた。また環境化学物質(おもに重金属)が蓄積する臓器パターンについて興味深い知見も得られており、特に反芻獣が非反芻獣と異なる蓄積パターンを示すことを明らかにした。以上の結果により、産業動物の異物代謝能に関して着実に新たな研究結果を得ていることから、産業動物の化学物質に対する生体防御機構のデータ基盤の構築に向けて、おおむね順調に研究が発展しているものと判断した。
当初の計画通り、産業動物に関する化学物質に対する生体防御機構を異物代謝能を中心に解明する予定であり、実験計画に変更はない。来年度はさらに調節因子類にシフトした研究や、毒性学的なバイオマーカーに関する研究も実施する予定である。これまで通り、国際学術雑誌への研究成果の報告や学会において成果発表を行う予定であるが、さらに、アウトリーチ活動としてWEBサイトを用いた研究成果の発信や、展示などを通じて研究活動を紹介するなど、社会への情報発信も積極的に行う予定である。
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すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件) 学会発表 (11件) (うち招待講演 2件) 備考 (1件)
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