研究課題/領域番号 |
24248060
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研究種目 |
基盤研究(A)
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
高辻 俊宏 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科, 准教授 (70163219)
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研究分担者 |
木村 真三 獨協医科大学, 医学部, 准教授 (50321849)
今中 哲二 京都大学, 原子炉実験所, 助教 (90109083)
遠藤 暁 広島大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (90243609)
佐藤 斉 茨城県立医療大学, 保健医療学部, 教授 (90285057)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 環境汚染 / 放射能汚染 |
研究概要 |
11月末に二本松市にゲルマニウム半導体検出器を設置、調整を行い、調整に使用した校正線源を各分担者が使用する既設の検出器に持ち込み、精度を確認した。1月からは、本格的に運用を開始した。二本松市内の米、自家製野菜、薪風呂の焼却灰、食事など、鮫川町、いわき市、川内村、福島市、郡山市についても調査と放射能測定を行った。新潟県三条市におけるがれき焼却に伴う排ガス中エアロゾルや焼却灰の放射能測定も実施した。いわき市志田名では、杉の立木の葉に含まれる放射能値を測定して、NHKの番組作りに協力した。セシウム134、セシウム137については、様々な試料において検出されている。測定結果は個別には報告しているが、とりまとめについては今後の課題である。がれきに含まれる放射能は、焼却に伴って数十倍に濃縮されることは確認したが、がれき焼却前にも近隣ゴミの焼却灰の中に放射能が含まれており、測定した限りでは、がれき焼却にともなう灰の放射能は、がれき焼却前のものに比べ最大50%程度高くなった。がれきの放射能濃度は低くても、計画されている大量の焼却では、焼却灰に含まれる放射能全体は高くなるので、取扱には注意が必要であることがわかった。長崎においてはエアロゾルの中に2011年に引き続き、原発事故由来と推定されるセシウム134、セシウム137が検出された。市中で販売されている茶葉、落花生、米加工品、リンゴなどからは微量ながらセシウム134が検出され、九州産とされるものの中からも検出されている。このことは、微量の事故由来放射能の摂取を避けることは困難であることを示している。 ホールボディカウンタによる住民の測定は、二本松市と連携して実施している。住民の個人被ばく線量と地域の空間線量の測定についても、調査中である。 先行する被災地であるチェルノブイリ発電所事故周辺の調査については、木村、今中によって精力的に実施中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ゲルマニウム半導体検出器の二本松市への設置は、11月となった。これは、入札手続きおよびその後の製品調達に時間を要したためであるが、このことはあらかじめ予測されていたことである。本格的な運用に至る以前には、長崎大学に既設の検出器により測定を行うことができた。 事故直後に採集した限られた地点での土壌試料の放射能測定値をから作った地図上の分布図と、事故後3か月~4か月に採集された土壌試料をもとにして文部科学省が発表している分布図との間にはI-131/Cs-137比に矛盾が見られなかった。このことから、文部科学省の分布図は、事故から日数がたった土壌のデータによるものであるにも関わらず、初期のI-131の分布の推測に使える可能性があることがわかり、我々の得たデータは初期の被ばくの影響を検討するのに有用であると考える。 「研究実績の概要」のところで述べたように、自然と人との関わりの中でどのように放射性物質が推移しているかに関するデータが集まりつつあり、住民、自治体との連携によって、放射能汚染の現状をある程度明らかにして、よりよい対策をとることにつなげることができたと考えている。 放射性物質の推移が明らかでない場合には、福島第二原発付近の住民は放射線被ばくについてただただ恐怖を持つか、無視するかしかできないし、それ以外の住民は福島から運ばれてきたものはただただ危ないものとして忌避する以外になく、安全とはほど遠い。実態が明らかになるに従い、日本国内では放射能汚染を完全に避けることは困難であること、放射能汚染には様々な程度があり、福島近隣のものはすべて忌避するということについては合理性がないことがはっきりしてきた。被ばくによる健康影響については、不明な点が多いとはいえ、安全を高めるための方策は、できるだけ汚染の実態を明らかにして被ばくを低減することであると考えられるようになった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に実施してきたことを根気よく継続することが最も大切であると考えている。 【ゲルマニウム半導体検出器による測定】二本松に設置したゲルマニウム半導体検出器は主として福島第一原子力発電所周辺の放射性物質の測定に用いる。測定対象物は、田畑、山林、住居周辺の土壌、植物、米、野菜、果物、キノコなどの農産物、海底堆積物、海水、魚介類、海草などの海産物。茨城、熊取、広島、長崎にある既存のゲルマニウム検出器は、これに加えて災害地から離れた地域の農産物、入手される食品、大気浮遊物などに含まれる放射性物質の測定などを行う。 【ホールボディカウンタによる測定】生活状況に応じた体内の放射能量を測定することによって知る。体内の放射能量の多い者は、対策を検討した上で、繰り返し測定をして推移を見る。 【放射能データの解析】得られたデータは互いの関連性を明らかにしていく。たとえば、農作物の放射能濃度は生育した田畑の放射能濃度や土質、栽培方法などに関連しているはずである。また、体内の放射能濃度は食物として経口摂取したものと肺に吸入した放射性の浮遊物に関係し、魚介類の放射能は、海底堆積物、海水、近くの陸上の状況と関係していると考えられる。原子力事故によるこのように大規模な放射能汚染は、チェルノブイリ 原子力発電所の事故のみであるので、これを参考にして、検討していく。今中は、ロシア語に堪能であり、現地の科学者とのつながりが強い。木村は、現在、内部被ばくの健康影響について、チェルノブイリ周辺での調査を実施中である。 【被ばくと健康状態の関係についての検討】事故後数年で住民や汚染物を摂取した人への著しい健康状態への影響が出ることは考えにくいが、甲状腺がんなど、影響に関する報告はすでに出て来ている。可能な範囲で調査し、被曝線量の推定値と比較検討する。また、被曝線量の推定値などから影響を検討できるようにしておく。
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