研究課題/領域番号 |
24248061
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
田中 寛 東京工業大学, 資源化学研究所, 教授 (60222113)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 真核細胞 / 細胞核 / 葉緑体 / シグマ因子 / テトラピロール / レトログレードシグナル / シグナル伝達 / シゾン |
研究概要 |
項目1 転写ループ:光や窒素栄養条件を変化させた場合に、核コードの葉緑体シグマ因子SIG2とSIG4量が逆相関的な調節を受けることを見いだした。SIG2が葉緑体フィコビリゾーム(PBS、光アンテナ複合体)遺伝子の転写を活性化する一方で、SIG4の過剰発現はPBS量の減少を誘導する。トランスクリプトーム解析の結果、SIG4過剰発現株では、PBS分解に関わる葉緑体ycf18遺伝子が活性化されていることが判った。さらに、核コードのシャペロン遺伝子群、代謝酵素遺伝子の活性化なども観察されるので、SIG4がPBSレベルを転写後の段階で調節すると同時に、何らかの葉緑体から核へのシグナル伝達ループが活性化されていることが見えてきた。今後はこのレトログレードシグナルの実体解明が課題となる。 項目2 DNA複製ループ:暗所でG1期に静止した細胞は光刺激により細胞周期を開始する。この際の光受容は葉緑体においてなされ、MAPKカスケードを介したシグナル伝達系により葉緑体・ミトコンドリアDNA複製を誘導する。本年度の解析ではシゾンに3種あるMAPKの機能解析を進め、オルガネラDNA複製(ODR)に関わるMAPKを特定した。テトラピロール分子との関わりでは、ODR開始にはミトコンドリアで合成されるヘム分子が必須であることが明らかになっている。一方で、葉緑体で合成されるアブシジン酸(植物ホルモンの一種)がストレス時にODR開始を阻害することが判明しているが、このアブシジン酸の効果が、細胞へのヘムの過剰投与により打ち消されることを見いだした。さらに、アブシジン酸の添加により細胞内のテトラピロール中間体群の濃度が大きく変動することを発見したことで、アブシジン酸は細胞内のヘム濃度を下げることでODRを阻害していると考えられる。アブシジン酸とテトラピロール代謝の関係についてはこれまで殆ど知られていないが、植物も含む光合成真核生物における普遍的な制御径路となっている可能性が高い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
生理学的な解析や、遺伝子の過剰発現等を用いた解析が順調に進行しているのに対し、ジーンチップを用いたChIP on chip解析などの網羅的解析によるデータ取得が予定よりもおくれている。これは機器の予期せぬ故障、また実験系の立ち上げに手間取ったためであるが、次第に目処が立ちつつあるので今後は順調に進行するものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は最終年度であるので、4種シグマ因子の標的ならびに関係するレトログレードシグナルの全体像。また、光照射からオルガネラDNA合成に至るシグナル伝達の流れについて、関連因子の同定と分子機構を含めた全体像を描き、細胞共生による植物細胞の成立や進化における位置づけについてまとめ、考察していく。
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