研究課題
アンチセンス医薬における課題解決のため、平成25年度は以下の項目を実施した。・ニューラルネットワークのひとつである多層パーセプトロンを用いて、特定配列のアンチセンス分子(AON)が高活性か低活性かを予測するモデルプログラムの構築を検討した。出力値には、標的RNA発現量のデータ112個のうち、発現量を50%以下に抑制した高活性群26個と低活性群26個(86個から無作為抽出)に分類したものを用い、入力値には、AONやmRNAの配列から分類した属性(113属性から選出)を用いた。その結果、ACC:76%、SN:63%、SP:89%、MCC:54%という高い予測性能が得られるモデルの構築に成功した。このモデルは特にSP(低活性AONの予測精度)が高いことから、低活性のAONを実験対象から事前に除外することで実験の効率化に寄与できるものと考えられる。・効率的なAONの人工核酸修飾を達成するため、系統的な報告例のないAON合成の縮合過程にあたえる反応温度の影響を検討した。現行のDNA合成機には反応温度を制御する機能がないため手動合成を実施した結果、反応温度の上昇がオリゴDNAの純度低下につながり、天然DNA合成での加温は望ましくない事が示唆された。・SeLNAのアデノシン類縁体合成を検討した。また、チミン塩基を持つSeLNAの機能性を評価し、LNAと同等もしくはそれ以上の二重鎖核酸安定化能を示す事を明らかとした。さらに、架橋型ピラノシド核酸の合成を達成し、そのRNAを標的とした二重鎖安定化能がリン酸ジエステル結合の結合位置(3'-6'/4'-6')の違いで1塩基あたり11℃程度の差が生じる事を明らかとした。・オリゴ核酸の体内動態の制御を目的として、ヘモグロビン機能調節低分子化合物とオリゴ核酸との複合体化するため、ヘモグロビン機能調節低分子化合物とアミノリンカーを結合した誘導体を約500mg合成した。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、アンチセンス医薬に焦点を絞り、その問題点を洗い出すとともに解決に向けて4つの課題を遂行する事で、海外に遅れを とっている核酸創薬の大きな全身を目指すものであるが、本年度は以下の項目について検討した。配列探索プログラムの開発については、計画通りヒト肝細胞で実施したアンチセンス分子による網羅的な脂質代謝関連遺伝子のmRNA発現抑制効果の結果を利用し、ニューラルネットワークのひとつである多層パーセプトロンを用いたアンチセンス活性予測プログラムのモデル構築を行った。高い予測性能が得られるモデルを構築する事に成功しており、本項目は予定通り進展していると考えられる。オリゴ核酸合成の効率化については、系統的な報告例のない縮合反応の反応温度を検討した。手動合成であることで実験結果の再現性に課題は残るものの、反応温度の上昇がオリゴDNAの純度低下につながる傾向があることを見いだした。この結果は今後の検討方針を決める上での重要な知見であり、概ね計画通りの成果といえる。さらに、人工核酸素材として開発を進めているSeLNAの機能性を評価し、LNAと同等もしくはそれ以上の二重鎖核酸安定化能を示す事を明らかとした他、セレン原子の酸化還元にともないオリゴ核酸の性質が変化することを見いだし、レドックス応答プローブの合成に利用できる事を示した。さらに、架橋型ピラノシド核酸の合成も達成し、そのRNAを標的とした二重鎖安定化能を精査した。本項目は、当初の計画以上に進展していると考えている。加えて、今年度から開始した低分子化合物をAONと複合体化では、特定部位での薬効等が確認されている低分子としてヘモグロビン機能調節化合物を選択し、オリゴ核酸との複合体化に必要なリンカーを結合した誘導体を約500mg合成した。以上のように、本研究は全体的に順調に進展していると考えている。
今後の研究の推進方策は原則としてこれまでと同様の方策に準ずるが、昨年度開始したAONの低分子化合物との複合体化とその細胞へ取り込みの変化について検討を深める。すなわち、核酸医薬の配列決定法の開発を目指し、これまで検討を進めてきたニューラルネットワークによる特定遺伝子に対する活性予測を、他の網羅的な遺伝子発現抑制実験結果にも適用することで必要なパラメータなどの精査を行い、予測精度を高める。この項目はこれまで通り、バイオインフォマティクスの専門家である大阪大学薬学研究科高木達也教授と連携して進める。オリゴ人工核酸合成の効率化に関しても、引き続き加熱やマイクロ波照射を利用する事で、縮合時間の短縮の可能性を検討する。昨年度は手動合成のため加温により内圧の上昇や溶媒の蒸発がもたらす影響は考える必要はなかったが、自動合成機への応用を想定しこの点に注意を払う。人工核酸素材合成に関しては、昨年度興味深い知見が得られたピラノシド核酸の機能性評価とともに誘導体合成も進める。これら新たな人工核酸については、各種分光学的解析を含めて様々な視点から性質を明らかにする。さらに昨年度から開始した項目として、特定臓器への集積または特定部位での薬効等が確認されている低分子化合物とAONとの複合体化を実施し、由来の異なる細胞への取り込みの違いを評価し、AONの機能強化に関する情報を収集する。これら項目についても昨年度と同様に、核酸合成の専門家として医薬基盤研究所森廣邦彦特任研究員と連携して進める。
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