現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高等動物の脳機能は多様な神経細胞が形成する膨大なネットワークに基づいている。遺伝情報と経験に基づく神経細胞の回路網形成の鍵となるシナプス形成の分子機構を解明することが、脳の発達と構築ならびに脳高次機能を理解し、その破綻から生じる脳神経疾患を克服するために必要不可欠である。 我々は、グルタミン酸受容体GluRδ2 がシナプス前部のβ-NeurexinとCbln1を介して結合することにより小脳皮質のシナプス形成を誘導することを解明した成果(Cell, 2010)を発展させ、シナプス形成を制御する三者複合体の量比を解析することによりGluRδ2 がNeurexinの4量体化を促し、シナプス形成を誘導することを明らかにした(J. Neurosci., 2012; Front. Neural Circuits, 2012)。 知的障害と自閉症の原因分子として知られるIL1RAPL1がシナプス前部の PTPδと相互作用することにより大脳皮質神経細胞のシナプス形成を制御することを明らかにした成果(J. Neurosci., 2011)を発展させ、その分子機構を明らかにするために、IL1RAPL1と相互作用する細胞内分子をaffinity chromatographyにより単離した。さらに、IL1RAPL1の欠損は神経ネットワーク形成の不全を引き起こし精神遅滞と自閉症の引き金となっているとの提唱を実証するために、純系C57BL/6遺伝子背景の下にIL1RAPL1欠損マウスを作成した。また、免疫・炎症反応に重要な役割を担っているIL-1受容体複合体を構成するIL-1 receptor accessory protein (IL-1RAcP)もシナプス前部のPTPδと相互作用することにより大脳皮質神経細胞の興奮性シナプス形成を制御していることを明らかにした(J. Neurosci., 2012)。 このように、脳神経細胞ネットワーク形成の鍵となるシナプス形成のメカニズム解明を大きく進展させることが出来た。
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