研究概要 |
小脳シナプス形成を担うGluRδ2-Cbln1-Neurexin複合体がシナプス前部の発達を制御する機構を明らかにするために、シナプス形成誘導後に細胞膜透過性のcross-linkerを用いて単離したNeurexin結合蛋白質の候補分子を質量分析により同定した。スコア値の高い30種類のシナプス前部細胞内蛋白質をcDNAから細胞に発現させ、Neurexinとの結合活性を検定した結果、半数の分子に結合活性を認めた。 自閉症と統合失調症の原因分子として知られるNeurexin分子群はPTP分子群とともに大脳シナプス前部における主要なシナプス形成分子であると考えられる。Neurexin分子群の生理機能を明らかにするため、Neurexin 1, Neurexin 2, Neurexin 3の各遺伝子にCre標的配列loxPを挿入したマウスを作成し、これらを順次掛け合わせることによりNeurexin 1, 2, 3 triple foxマウスを得ることに成功した。 知的障害と自閉症の原因分子として知られるIL1-receptor accessory protein-like 1 (IL1RAPL1)による大脳皮質神経細胞シナプス形成の分子機構を明らかにするために、affinity chromatographyにより単離したIL1RAPL1の細胞内領域に結合する5種類の細胞内分子の機能を調べた。IL1RAPL1によるスパイン形成誘導に必要なTIR domainに結合する分子に焦点を絞り、大脳皮質神経細胞のMcf2lをノックダウンするとIL1RAPL1によるスパイン形成誘導能が障害されることを見いだした。さらに、Mcf2lシグナルの下流のRhoA及びROCKシグナルを阻害するとIL1RAPL1によるスパイン形成誘導が低下することを明らかにした。また、IL1RAPL1からMcf2lを経由するRhoA-ROCKシグナルがAMPA型グルタミン酸受容体のシナプス膜挿入を制御し、興奮性シナプスの安定化に寄与することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
グルタミン酸受容体GluRδ2 がシナプス前部のβ-NeurexinとCbln1を介して結合することにより小脳皮質のシナプス形成を誘導することを解明した成果(Cell, 2010)を発展させ、シナプス形成を制御する三者複合体の量比を解析することによりGluRδ2 がNeurexinの4量体化を促し、シナプス形成を誘導することを明らかにした(J. Neurosci., 2012; Front. Neural Circuits, 2012)。また、自閉症と統合失調症の原因分子であるNeurexin分子群の生理機能を明らかにするため、Neurexin 1, 2, 3遺伝子にCre標的配列loxPを挿入した triple foxマウスを作成した。 知的障害と自閉症の原因分子であるIL1RAPL1が大脳皮質神経細胞のシナプス形成を制御していることを明らかにしたこと(J. Neurosci., 2011)を発展させ、純系C57BL/6遺伝子背景の下にIL1RAPL1欠損マウスを作成し、大脳皮質および海馬の錐体神経細胞のスパイン密度が有意に減少していることを見いだすとともに空間参照記憶、空間作業記憶及び恐怖条件付け学習のいずれにおいても障害が認められることを明らかにした。また、IL1RAPL1の細胞内領域のTIR domainに結合するMcf2lとその下流のRhoA-ROCKシグナルがIL1RAPL1によるスパイン形成誘導に重要であること、さらに、IL1RAPL1- Mcf2l-RhoA-ROCKシグナルがAMPA型グルタミン酸受容体のシナプス膜挿入を制御し、興奮性シナプスの安定化に寄与することを明らかにした(PLoS ONE, 2013)。IL-1受容体複合体を構成するIL-1 receptor accessory protein (IL-1RAcP)もシナプス前部のPTPδと相互作用することにより大脳皮質神経細胞の興奮性シナプス形成を制御していることを明らかにした(J. Neurosci., 2012)。 このように、脳神経細胞ネットワーク形成の鍵となるシナプス形成のメカニズム解明を大きく進展させることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
小脳シナプス形成を担うGluRδ2-Cbln1-Neurexin複合体がシナプス前部の発達を制御する機構を明らかにするために、シナプス形成誘導後に細胞膜透過性のcross-linkerを用いて単離したNeurexin結合蛋白質を培養小脳顆粒細胞でノックダウンし、GluRδ2からのシナプス形成誘導への影響を検定する。さらに、神経伝達物質放出部位であるactive zone構成蛋白質との相互作用を検定する。また、Neurexin 1, 2, 3遺伝子にCre標的配列loxPを挿入した triple foxマウスに脳部位あるいは神経細胞特異的Creマウスと掛け合わせ、自閉症と統合失調症の原因分子であるNeurexin分子群の生理機能を明らかにする。 知的障害と自閉症の原因分子IL1RAPL1が大脳皮質神経細胞のシナプス形成を制御する分子機構を明らかにするために、シナプス形成誘導後に細胞膜透過性のcross-linkerを用いて単離・同定したPTPδ結合蛋白質を培養大脳神経細胞でノックダウンし、IL1RAPL1からのシナプス前部形成誘導への影響を検定する。さらに、神経伝達物質放出部位であるactive zone構成蛋白質との相互作用を検定する。
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