研究課題/領域番号 |
24249022
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研究種目 |
基盤研究(A)
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
岡田 保典 慶應義塾大学, 医学部, 教授 (00115221)
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研究分担者 |
望月 早月 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (80365428)
藤井 豊 福井大学, 医学部, 教授 (80211522)
下田 将之 慶應義塾大学, 医学部, 助教 (70383734)
木村 徳宏 慶應義塾大学, 医学部, 助教 (40445200)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 組織リモデリング / MMP / ADAM / 悪性腫瘍 / 関節軟骨 / 血管 |
研究概要 |
病的組織でのリモデリングにおけるメタロプロテアーゼ(MMP=matrix metalloproteinaseとADAM=a disintegrin and metalloproteinase)の役割を検討し、以下の結果を得た。(1)ADAM28はヒト癌細胞株で高発現し、VWF (von Willebrand factor)を分解した。肺転移マウスモデルでの検討では、ADAM28発現抑制で肺転移は有意に低下し、血中VWF分解は対照群に比べて抑制され、癌細胞の多くは肺血管内でアポトーシスに陥っていた。自然転移モデルにおいても、癌細胞の局所での増殖と転移はADAM28発現抑制で低下することから、ADAM28の癌細胞増殖・転移での重要性が実証された。(2)急性大動脈解離(Acute Aortic Dissection=AAD)患者では、血漿中のMMP9とAngiotensine II(AngII)が有意に上昇しており、MMP9は大動脈に浸潤した好中球に由来することを突き止めた。リジルオキシダーゼ阻害剤を投与したマウスにAng II投与により全例でAADを発症させることに成功し、大動脈内膜への好中球浸潤とMMP9の発現・活性化を示した。AAD発症率は、MMP阻害薬投与、好中球中和抗体投与、MMP9 ノックアウトマウスで有意に低下し、Ang II刺激により内膜浸潤した好中球由来MMP9がAADを誘導することを証明した。 (3) ADAM17(別名TACE)遺伝子を軟骨細胞特異的にノックアウトし、長管骨の短縮、骨端板での肥大軟骨層延長を認めた。軟骨細胞でのEGFRリン酸化低下、osteoprotegrin発現増加、RANKLとMMP13の発現低下が示され、ADAM17による軟骨細胞でのEGFRシグナルが、上記の遺伝子発現調節を介して骨端板発育に重要なことが証明された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本基盤研究(A)では、(研究I)悪性腫瘍、(研究II)血管疾患、(研究III)関節軟骨疾患を代表として、腫瘍性疾患と非腫瘍性疾患、有血管性組織と無血管性組織の対立軸を持ちながら、メタロプロテアーゼ分子の病的組織リモデリングでの作用を研究している。本年度の研究により、悪性腫瘍の研究項目ではADAM28の癌細胞増殖・転移での役割を実証でき、将来的には本分子を標的とした分子治療の開発も期待できると考えている。血管疾患での研究項目では、世界に先駆けてAADのモデルの開発に成功し、AAD発症にMMP9が決定的役割を果たしていることが証明された。AAD患者血中のMMP9迅速測定法の開発ができれば、非侵襲的診断法のないAADの新規診断法開発につながる可能性がると期待される。これの研究成果はインパクトの高い論文として発表され、いずれも全国紙を含む新聞誌上で取り上げられた。軟骨研究では、ADAM17が骨端板で軟骨性骨形成に重要な役割を果たしていることが明らかにでき、生理的な組織での所見ではあるが、非血管性組織が有血管性組織に転換する時期での組織リモデリングでの重要な知見を与えている。以上のことから、本研究は概ね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度得られた成果をさらに発展させるとともに、当初の研究計画に基づいて、各研究項目で手付かずの研究課題を開始する。 (研究I) 悪性腫瘍組織でのリモデリング解析:ヒト癌細胞株をHoechst 33342 で処理後にside population(SP)とnon-SP に分画し、両群間で発現が異なる全てのMMP/ADAM分子種を特定する。また、腎摘後に再発し、抗VEGF受容体キナーゼ薬(スニチニブ)治療を受けた患者に関して、MMP/ADAM候補分子やサイトカインを腎癌組織で免疫染色し、陽性率が再発腫瘍の治療抵抗性マーカーになることを証明し、候補分子発現が分子標的薬剤選択の一助になることを示す。(研究II) 有血管性組織疾患における組織リモデリング解析:マクロファージはlow density lipoproteinを貪食するとADAM28を強発現することから、ヒト粥状動脈硬化症血管壁に浸潤したM1-マクロファージとM2-マクロファージの分布を調べ、ADAM28発現マクロファージを同定し、ヒトマクロファージ前駆細胞を用いてM1-マクロファージあるいはM2-マクロファージ分化に伴うADAM28発現誘導機構を検討する。また、ADAM17ノックアウトマウスに潰瘍性大腸炎を作製し、組織リモデリングにおける本酵素の役割を検討し、ヒト潰瘍性大腸炎患者粘膜での上皮再生・分化におけるADAM17の作用を増殖因子代謝に焦点を合わせて機能解析する。(研究III) 軟骨疾患での組織リモデリング解析:変形性関節症関節軟骨の組織リモデリングに関わるADAMTS4分子に関して、分解活性調節分子を見出し、ADAMTS4を介した軟骨組織リモデリング機構を解析するとともに、ADAMTS4活性制御抗体の開発を行う。
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