研究課題
われわれのこれまでの研究から、パイエル板に代表される腸管関連リンパ組織のリンパ濾胞を覆う上皮領域、follicle-associated epitheliumに存在し、腸管腔内の細菌などの巨大な抗原取り込みに特化した特殊腸管上皮M細胞の分化には、サイトカインRANKLが必要であることがわかっている。破骨細胞などでは、RNAKLの下流でNFκB経路が働いていることが知られている。NFκBには古典的経路と非古典的経路が存在する。そこで、RANKLによるM細胞の分化においてこれらのNFκB経路が重要であるか否かを検証するために、古典的経路のTRAF6遺伝子欠損マウスにおけるM細胞の分化を調べたところ、M細胞は存在しなかった。また、IKKβ阻害剤sc-514によってもM細胞の分化は抑制された。一方、非古典的経路のNIKおよびRelBの欠損マウスではパイエル板が形成されないため必然的にM細胞も存在せず、マウス個体レベルではM細胞の分化への影響を調べることはできない。そこで、これらのマウス腸管から、腸管上皮幹細胞を含むクリプトを回収してマトリゲル中で培養してエンテロイドを形成させ、そこにRANKLを投与することによりin vitroでM細胞分化を誘導する系を用いて検討した結果、野生型のマウスから作成したエンテロイドではRANKLによりM細胞が効率よく誘導されるのに対し、NIKあるいはRelBの欠損マウスのエンテロイドではRANKLを投与してもM細胞の分化は認められなかった。これらの結果は、RANKLの下流でNFκBの古典的経路ならびに非古典的経路の両方が作用することでM細胞分化が誘導されることを示唆している。
2: おおむね順調に進展している
M細胞の分化において、サイトカインRANKLの下流でNFκBの古典的経路ならびに非古典的経路の両者が働いていることを示すことができた。さらに、慶應大学・佐藤俊朗博士との共同研究により、マウスおよびヒトの小腸、大腸クリプトの腸管上皮幹細胞からin vitroで腸管上皮の分化を再現するエンテロイド培養系を確立し、そこにRANKLを添加することにより、M細胞が効率よく分化誘導されることも確認し、本法を応用することで、欠損マウスではパイエル板の形成が阻害されるために個体レベルにおいてM細胞の分化を検証することができないNIKならびにRelB欠損マウスから作成したエンテロイド培養系を用いてM細胞の分化を検討することができた。さらに、エンテロイド培養系を改良することにより、通常は球状のエンテロイド培養を、トランスウェル上で一層の上皮層として培養することにも成功しており、これは今後in vitroでM細胞の機能を分子レベルで解析するために非常に重要な技術となる。
RANKL刺激により、NFκBの古典的経路ならびに非古典的経路が動くことで転写因子Spi-Bの発現が誘導され、M細胞の分化が誘導されることはわかっているが、エンテロイド培養へのウイルスベクターによる遺伝子導入の実験から、Spi-B単独ではM細胞分化には不十分であることが示唆されている。そこで、NFκB経路の遺伝子を単独で、あるいは複数の組み合わせでエンテロイド培養系に発現させてRNAを抽出しRNAseq法により発言の変動する遺伝子を同定することにより、RANKLの下流でSpi-b以外にどのような分子がM細胞の分化に関与しているかを検索する。GP2特異的アプタマーに関しては、引き続き人工塩基を用いたDNAアプタマーライブラリーのスクリーニング系を用いて、高親和性のGP2特異的DNAアプタマーの取得を試みる。
すべて 2013 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 3件) 備考 (1件)
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http://leib.rcai.riken.jp/riken/index.html