研究概要 |
本研究は、現行で治療法がないか、多量の副腎皮質ステロイド療法しかないといった希少難治性炎症疾患群に対して、有効で安全な治療薬としてPAI-1阻害薬を提供することを目的としている。 今年度は、Thy1腎炎ラットモデルにおいて、PAI-1阻害薬を経口投与することにより、腎糸球体に対する炎症性マクロファージの浸潤を抑制できることを明らかにした。また、腎臓における微小血栓形成や上皮細胞傷害を寛解するなど、抗炎症効果と抗血栓効果の両面でその病態の改善に効果を発揮することが明らかとなった。In vitroマクロファージ遊走阻害実験や、変異体PAI-1を用いた分子生物学的解析によって、炎症部位で発現が上昇したPAI-1そのものがマクロファージに対する遊走因子として働いていることを見出した。また、PAI-1の遊走因子としての作用が発揮される分子薬理学的メカニズムを解明し、難治性腎炎に対する治療効果を明らかにすることが出来た。以上の知見はArteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biologyに発表した。また、骨髄再生時のPAI-1阻害薬投与により、造血幹細胞の増殖分化が促進されることを発見した。致死量の放射線照射後、造血幹細胞移植したマウスにおいて、PAI-1阻害薬が血球再生を促進することを見出して、新たな臨床的有用性に繋がる有益な知見を得た。その他複数の希少難治性炎症疾患モデルに対してPAI-1阻害薬の薬効の有無を探索した結果、マウス鼻アレルギーモデルにおいても病態の寛解効果並びに免疫細胞浸潤阻止効果を見出した。
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