研究課題
本研究は、現行で治療法がないか、多量の副腎皮質ステロイド療法しかないといった希少難治性炎症疾患群に対して、有効で安全な治療薬としてPAI-1阻害薬を提供することを目的としている。昨年度にThy1腎炎ラットモデルで有効性が認められたことから、腎疾患モデルの検討を広範に実施した。難治性腎疾患の巣状糸球体硬化症(FSGS)モデルであるNEP25マウスをはじめとして、LPS腎症マウス、虚血再灌流(IR)マウス、腎間質障害モデルの片側尿管結紮(UUO)マウスおよび急性腎障害(AKI)モデルのシスプラチン腎障害マウスの検討を行った。結果は、Thy1腎炎で薬効を示したPAI-1阻害薬のTM5441の30 mg/kg/日経口投与は、LPS腎症マウスで陽性対照のedaravonと同様に再現性ある有効性を示し、血中BUN、クレアチニン・クリアランス並びに尿中アルブミンで有意な改善を示した。また、その作用は腎臓でのTnf-αの発現亢進に対する抑制効果であることが示唆された。しかし、TM5441は、NEP25マウス、IRマウス、UUOマウスおよびAKIマウスでは効果を示さず、適応できる腎疾患がかなり限られる可能性が示唆された。一方、昨年度見出した骨髄再生時のPAI-1阻害薬投与により、造血幹細胞の増殖分化が促進については、骨髄内のtPA-PAI-1系が幹細胞因子(SCF)の活性制御に関わっており、PAI-1阻害薬の経口投与により造血再生を促進できることを明らかにした。また、PAI-1阻害薬の適応疾患候補として、難治性神経疾患の1つである多発性硬化症(MS)に効果がある可能性を新たに見出した。すなわち、MSモデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)マウスにおいて、TM5441は神経症状発症後の50 mg/kg/日経口投与において、症状改善(治療)効果を示した。また、化学構造からTM5441よりも血液脳関門を透過しやすいことが考えられたTM5484は、特記すべきことに5 mg/kg/日経口投与から治療効果および予防効果を発揮した。
1: 当初の計画以上に進展している
平成25年度の研究達成目標は、平成24年度に特定したPAI-1阻害薬の最も有効な希少難治性炎症疾患における治験でPOC(proof of concept)を得るのに適したPAI-1阻害薬(臨床開発品)の選定を行い、本研究計画終了後の医師主導治験に関わるプロトコールの作成を行うことである。しかし、平成24年度に見出した骨髄再生におけるPAI-1阻害薬の有用性については、プロトコールの作成にとどまらず、本年度は実際に医師主導治験(第I相試験)を実施した。さらに、本年度は研究実績の概要に示したように、難治性神経疾患である多発性硬化症(MS)における薬効と臨床開発候補の選定という本プロジェクトにおける2つ目の特筆できる成果をあげた。
骨髄再生時のPAI-1阻害薬による造血促進作用については、白血病治療における臍帯血や末梢幹細胞移植時の造血再生促進の可能性と臨床応用をさらに追及する。また、多発性硬化症治療薬については、非臨床安全性試験や薬理学的作用機序の解明を進め、簡単な安全性試験(non-GLP)で問題がないようであれば、POCを取るための臨床試験に橋渡しするために非臨床試験(GLP試験)を開始する。
すべて 2013
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (4件)
Arterioscler Thromb Vasc Biol.
巻: 33 ページ: 935-942
10.1161/ATVBAHA.113.301224
Thromb Res.
巻: 32 ページ: 100-105
10.1016/j.thromres.2013.04.003.
Circulation
巻: 128 ページ: 2318-2324
10.1161/CIRCULATIONAHA.113.003192
Lancet
巻: 382 ページ: 353-362
10.1016/S0140-6736(13)60438-9
Kidney Int.
巻: 84 ページ: 693-702
10.1038/ki.2013.74