研究課題
Ezh2欠損マウス、Tet2低発現マウス、ならびにこれらのコンパウンドマウスを作成し、移植後10ヶ月まで血液学的表現系を観察したところ、Ezh2欠損マウスはMDS/MPN様の病態をきたし、10ヶ月以内に半数が死亡することを確認した。これらのマウスは、MPNの特徴である髄外造血を伴った脾腫と、MDSの特徴である血球形態の異形成と無効造血に起因した貧血を呈した。驚くべきことに、Ezh2欠損マウスとTet2低発現マウスとのコンパウンドマウスは、MDS/MPNだけでなくMDS様の病態もきたし、Ezh2欠損マウスと比べMDS関連疾患発症の潜伏期間を著明に短縮させ、全マウスが10ヶ月以内に肺炎で死亡した。造血幹細胞/前駆細胞(LSK細胞)を用いてDNAマイクロアレイならびにgene set enrichment analysis (GSEA)を行った。予想通り、Ezh2 標的遺伝子群は、Ezh2欠損下で発現が脱抑制していたが、興味深い事にEzh2欠損下ではEzh1が機能し、腫瘍の進展に不都合な癌抑制遺伝子群などの発現抑制を維持し、腫瘍発症に寄与している事が示唆された。DNAマイクロアレイと顆粒球/単球系前駆細胞(GMP)におけるH3K27me3の抗体を用いたクロマチン免疫沈降(ChIP)シーケンシングの結果から、Ezh2欠損下ではEzh1による代償作用で典型的な発生・分化制御遺伝子の転写抑制が維持されることが確認された。その一方で、Hmga2やPbx3といった直接的なEzh2の標的癌遺伝子群の発現抑制が解除されることも確認された。以上の研究成果により、MDS関連疾患の病態発症にEzh2が癌抑制遺伝子として機能することを世界で初めて証明した。さらに、EZH2とTET2遺伝子変異など、複数の共存する遺伝子変異が協調してMDS関連疾患の病態形成に寄与することを明らかにし、血液病学の分野における極めて意義の大きい知見を得ることができた。
2: おおむね順調に進展している
MDS関連疾患の病態発症にEzh2が癌抑制遺伝子として機能することを世界で初めて証明した。さらに、EZH2とTET2遺伝子変異など、複数の共存する遺伝子変異が協調してMDS関連疾患の病態形成に寄与することを明らかにし、血液病学の分野における極めて意義の大きい知見を得ることができた。これらの成果は、論文として2-13に報告することができた。
今後は、上述したモデルマウスにおけるDNAメチル化阻害剤の有用性と作用機序の解明を行う予定である。まず、MDS関連疾患を発症したコンパウンドマウスの骨髄細胞を、sublethal量の放射線を照射したレシピエントマウスに移植し、DNAメチル化阻害剤であるdecitabine投与群とPBS投与群に分け、移植後一ヶ月から投与を行う。治療効果の評価として、生存期間や血球減少の改善の有無を評価すると共に、LSK分画の細胞をサンプリングしDNAマイクロアレイ解析とDNA bisulfiteシークエンスを行う。これらの結果を併せて解析することにより、DNAメチル化阻害剤が治療効果をもたらす上で、重要な標的遺伝子群を同定する事を目指す。また、造血器腫瘍に関与する非蛋白コードRNAのプロファイリングとその機能解析を進め、造血器腫瘍のエピジェネティクスの理解を進めたい。
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