研究課題
小児がんの治癒率が70%を越す中、今なお最も難治性の高リスク神経芽腫に対する新しい治療薬の開発は喫緊の課題である。インシリコ・オートドック・スクリーニング法を用いて、TrkB受容体のBDNF結合領域を標的とする300万個の低分子化合物から、7個の阻害剤を同定し、IC-50の低い2個の構造から新規化合物の作製を試みた。その結果、さらにIC-50の低い化合物を見いだした。また、BDNFによるTrkBの活性化がこれらの化合物により強く抑制された。ALKとShcCが結合する領域2か所に結合する低分子化合物に関しては、下流で活性化されるシグナルの解析を進めた。一方、神経芽腫cDNAプロジェクトから同定した高リスク神経芽腫に高発現するNLRR1新規膜蛋白質に対する単クローン抗体の中から神経芽腫細胞の増殖を抑制するものを選択し、エピトープマッピングを行った。また、抗がん剤との併用により相乗効果が認められた。MYCNオンコジンの cis-antisense geneであるNCYM遺伝子は、ヒトおよびチンパンジーのみにしか無い蛋白質であることを明らかにしたが、MYCN蛋白質の安定化を起こす機序はGSK3bを阻害することによるものであることが明らかになった。NCYMトランスジェニックマウスを作成し、既存のMYCNトランスジェニックマウスとのダブルトランスジェニックマウスを作成したところ、ヒト神経芽腫に類似した遠隔転移を高頻度に起こした。発生した神経芽腫組織を収集し、現在、ヒト神経芽腫サブタイプとの比較をアレイCGHや次世代シーケンサーを用いて行なっている。
2: おおむね順調に進展している
神経芽腫の標的分子に対する低分子化合物のスクリーニングと機能解析は、予定どおりTrkB、ALK、ShcCを対象に順調に進んでおり、300万個の中から同定した阻害剤候補に関しては、アポトーシス誘導の下流シグナルの解析が進んだ。神経芽腫細胞の増殖に抑制的に働くNLRR1単クローン抗体の同定も確実なものになり、安定した抑制効果が得られている。in vitroの研究からin vivo研究への移行を行うための抗体の大量作製も進み、一方でヒト化の試みも行っている。研究全体の計画はほぼ順調である。上記のオリジナルな新薬候補の効果をスクリーニングするために、NCYM/MYCNダブルトランスジェニックマウスの継続的作成と、ゼノグラフトを用いた抗がん剤スクリーニング系の安定した供給を目指して体制作りを行った。時間がかかっているが、少しずつ進んでいる。
同定した低分子化合物の神経芽腫細胞増殖阻害剤としての細胞内シグナル伝達機構の解析をさらに進める。また、他の抗がん剤との併用効果に関しても、in vitroの系において研究を進め、臨床応用への道を探る。NLRR1抗体に関しては、NLRR1との結合部位が明らかになったので、ヒト化抗体の作製を試みる。また、NLRR1が膜貫通領域において切断され、可溶性フラグメントができている可能性をさらに追究し、その確認と臨床的・生理学的意義について解析する。NCYM蛋白質の機能的意義に関して研究し、とくにstemnessやcancer stem cellにおける役割について解析を進める。NCYM/MYCNダブルトランスジェニックマウスに発生した神経芽腫とMYCNトランスジェニックマウスに発生した神経芽腫を比較し、遺伝子発現、ゲノム異常(アレイCGH)などを検討する。
すべて 2014 2013
すべて 雑誌論文 (20件) (うち査読あり 20件、 オープンアクセス 2件)
Oncogene
巻: 33(20) ページ: 2601-2609
10.1038/onc.2013.221.
Cancer Res.
巻: 74(14) ページ: 3790-3801
10.1158/0008-5472.CAN-14-0241.
Pediatr. Blood Cancer
巻: 61 ページ: 760-762
10.1002/pbc.24779
PLoS Genet.
巻: 10 ページ: e1003996
10.1371/journal.pgen.1003996
Cancer Medcine
巻: 3 ページ: 25-35
10.1002/cam4.175
巻: 61 ページ: 627-635
10.1002/pbc.24777
Eur. J. Cancer
巻: 50 ページ: 1555-1565
10.1016/j.ejca.2014.01.023
Cancer Lett.
巻: 348 ページ: 167-176
10.1016/j.canlet.2014.03.022
J. Clin. Oncol.
巻: 32 ページ: 1228-1235
10.1200/JCO.2013.53.6342
巻: 32 ページ: 4086-4099
10.1038/onc.2012.437
Dis. Model. Mech.
巻: 6 ページ: 373-382
10.1242/dmm.010348
Int. J. Oncol.
巻: 42 ページ: 134-140
10.3892/ijo.2012.1684
巻: 331 ページ: 115-121
10.1016/j.canlet.2012.12.011
Cancer Sci.
巻: 104 ページ: 563-572
10.1111/cas.12115
Sci. Rep.
巻: 3 ページ: 1160
10.1038/srep01160
Jpn. J. Clin. Oncol.
巻: 43 ページ: 641-645
10.1093/jjco/hyt058
Cells
巻: 2 ページ: 432-459
10.3390/cells2020432
J. Clin. Invest.
巻: 123 ページ: 2935-2947
10.1172/JCI65988
巻: 3 ページ: 3450
10.1038/srep03450
PLoS One.
巻: 8 ページ: e82744
10.1371/journal.pone.0082744