研究課題
われわれはこれまでに口腔扁平上皮癌(OSCC)の癌関連ペプチドを用いたT細胞の腫瘍免疫に効果について検討しており、新たな癌ペプチドとしてRCAS1(receptor-binding caner antigen expressed on SiSo cells)という子宮腺癌由来細胞株SiSoに発現する癌関連抗原をOSCCでも確認した。現在その他の癌ペプチドについても検索中である。腫瘍免疫の主役は従来抗腫瘍T細胞が考えられてきたが、近年では自然免疫による抗腫瘍作用も注目されている。以前よりがん組織内に多数のマクロファージがみられることは知られているが、その具体的な役割はよく分かっていなかった。最近の研究では、がん組織中のM2に分化した腫瘍随伴性マクロファージ(TAM)の数が多いほど治療の効果が低く、予後が悪いことが報告されていが、OSCCにおけるその増殖および転移とTAMとの関連についての報告はほとんどない。われわれは従来、癌周囲のヘルパーT(Th)細胞に注目して、その浸潤機構との関連について報告しており、マクロファージのM2へのシフトについては、Th細胞や癌自体が産生するサイトカインが「微小環境」を形成することでTAMが増殖すると推察している。そこで本研究では、OSCCの悪性度によるTAMの局在と発現について検索するとともに、T細胞とマクロファージの相互作用に注目して、腫瘍免疫効果について検討を行った。その結果、YK分類で2群に分類して腫瘍周囲のM2/M1+M2比をみたところ、YK分類で高悪性の群はM2(TAM)優位であった。さらに、浸潤様式の評価法であるYK分類で軽度と重度に分けたところ、高悪性の症例ではIL-4とCD163が強く発現していた。また制御性T細胞の浸潤もM2マクロファージと正の相関を示した。このように、OSCCの悪性化にTAMが関与していることが示唆された。
3: やや遅れている
癌ペプチドについては、現在検索中であるが、まだRCAS1以外のペプチドの同定まで至っていない。その理由としては、個人の多様性とそれに伴う必要とする検体数の増加である。しかし、腫瘍免疫における自然免疫細胞の応用の可能性を見いだしており、今後は獲得免疫(抗腫瘍T細胞)、自然免疫(腫瘍随伴性マクロファージ、樹状細胞)の両方から検討を行う。
1) OSCCのTh1/Th2バランスとTAMとの関連前述のように、M2マクロファージはTh2細胞に応答すると考えられている。本研究ではTh1/Th2バランスに注目して、がん組織中のTAM細胞数とIFN-γ/IL-4(Th1/Th2比)やIL-4発現量との相関について検討を行う。2) in vivoでのOSCCの増殖・浸潤能TAMは癌のSTAT3を活性化し、増殖・転移の促進、上皮間葉転移(EMT)や抗がん剤の耐性獲得の関与が報告されている。本研究では、OSCCとTAMを共培養し、さらにTh1/Th2バランスを変化させること(IL-4やIFN-γの添加)によるOSCCのSTAT3発現および増殖・浸潤能について、real-time PCR法(mRNA発現量)やELISA法(上清サイトカイン量)、フローサイトメトリー(M1/M2比)にて検討を行う。3) 口腔癌が発現する癌ペプチドに反応するT細胞の同定癌ペプチドに反応するT細胞を同定するために、口腔癌ならびに白板症や紅板症などの前癌病変に罹患しているHLA-A24陽性患者を対象とし、細胞傷害性T細胞(CTL)が認識する癌ペプチドとして報告されているSART-1、SART-2、SART-3、MAGE-1、MAGE-2、MAGE-3、survivin-2B、URLC10、TTK、WT1、lck、cyclophilin B、ART4、HSP105を用いる。in vitroでのCTL誘導能による同定:末梢血単核球を採取し、種々の癌関連抗原ペプチドとIL-2を加えて3週間培養し、癌関連抗原ペプチドを加えた以上のように、個々の患者で癌ペプチドの発現とそれに対する免疫応答の強さを評価する。また、口腔癌の場合は分化度や組織学的悪性度との関連を、前癌病変の場合は上皮性異形成の程度との関連を調べる。
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