研究課題/領域番号 |
24251014
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
西秋 良宏 東京大学, 総合研究博物館, 教授 (70256197)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 考古学 / 新石器時代 / 農耕牧畜 / コーカサス / 狩猟採集 |
研究実績の概要 |
本研究は、西アジア新石器時代に成立した初期食料生産経済の北方への拡散、すなわちコーカサス地域における二次的新石器化の内容をアゼルバイジャンでの野外調査をとおして明らかにしようとするものである。 平成27年度は、以下のような研究をおこなった。 (1)野外調査。8月から9月にかけてアゼルバイジャン共和国にてハッジ・エラムハンル・テペ遺跡の調査、および周辺地域のサーベイを実施した。ハッジ・エラムハンル・テペ遺跡は、当地最古の新石器時代集落である。その遺跡発掘を完了し、集落の範囲、居住開始年代などを確定することができた。一方、周辺地域のサーベイにおいては、農耕牧畜が到来した際、在地の狩猟採集民はどう対応したのか、この問題の理解に資すべく中石器時代遺跡の探索に集中した。その結果、アベイ山麓のダムジリ洞窟が有望な調査地であることを確認した。 (2)データ分析。これまでに蓄積したデータを分析し、多くの論文を発表した。二つの論文が重要である。一つは、測定した50以上の放射性炭素年代を解析し、南コーカサス地方最初の新石器時代集落の成立が8000年前であったことを確定させた論文である。この時期はいわゆる8.2ka後の湿潤温暖期にあたる。すなわち、コーカサス地方の二次的新石器化は気候変動と関連していたことが強く示唆された。もう一つは、調査した諸遺跡のデータを分析し、新石器文化が到来直後から在地化していくプロセスを明らかにした論文である。具体的には、最古の新石器文化はパッケージとして一体的に持ち込まれたものではないことを証明した。また、ハッジ・エラムハンル遺跡出土の物質文化に西アジアからの搬入品が目立つことを指摘し、新石器文化の導入にあたっては起源地である西アジア地域との密接な社会関係が背景にあったことも論じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
南コーカサスにいつ、どのように農耕牧畜が到来したかについての解明は、かなりの程度、達成できた。研究開始当時にはアゼルバイジャン最古の新石器文化はショムテペ文化とされていたが、その年代は紀元前6千年紀とも5千年紀ともいわれており、新石器時代の開始年代すらわかっていなかった。本研究によって、ショムテペ文化の典型遺跡であるギョイテペの発掘だけでなく、新たに見つけた、それより古いハッジ・エラムハンル遺跡の調査をも実施することができた。そして新石器時代の開始年代はもちろん、その後の発展のプロセスなどについても数々の新知見を提出することができた。国際的に卓越した成果であると確信する。これまでの進展は、当初の計画以上だと言いうる。
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今後の研究の推進方策 |
まだ明らかでない問題の一つは、食料生産経済が到来した際に、在地の狩猟採集民、すなわち中石器時代集団がどのように対応したのかについての詳細である。これまでの研究によって、外来文化を取り入れながらも在地集団は地元の文化伝統を維持したらしいことが示唆されている。しかし、これをさらに詳細に議論できていないのは、調査地周辺に内容が明らかになっている中石器時代遺跡が全くないからである。この点、今回のサーベイによりダムジリ遺跡の調査が有望との結論を得たことは重要である。次年度に、この遺跡を発掘し、中石器時代集団の文化を定義したい。そして、それと最古の新石器文化であるハッジ・エラムハンル文化を比較研究し、本プロジェクトの最終目標にいたることとしたい。
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