研究課題/領域番号 |
24252008
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応募区分 | 海外学術 |
研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
小井土 彰宏 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (60250396)
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研究分担者 |
宣 元錫 大阪経済法科大学, アジア太平洋研究センター, 客員研究員 (10466906)
上林 千恵子 法政大学, 社会学部, 教授 (30255202)
伊藤 るり 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (80184703)
塩原 良和 慶應義塾大学, 法学部, 教授 (80411693)
鈴木 江理子 国士舘大学, 文学部, 准教授 (80534429)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 国際移民 / 移民政策 / 国際社会学 / 外国人労働者 / エスニシティ / 国際比較 |
研究概要 |
2012年度は、3回の研究会を通じて、研究分担者・研究協力者間の問題意識のすり合わせを進めつつ、予備調査を実施し各国における2013年度以降の本調査の研究基盤作りに重点を置いた。各国に関しては以下のような成果があった。(仏)非正規移民支援団体等に対する調査と資料収集に基づき、①家族合流移民への規制強化、②労働市場テストなどが同政府の選別性強化の柱であると発見できた。(スペイン)移民政策形成に関与した専門家からの聞き取りにより、民主化以来の政治文化が移民規制を規定している点が浮き彫りになり、南部調査では、規制の強化と人権上の配慮や統合政策の共存が特徴と把握した。(独)現地で難民の権利獲得状況を調査し、滞在権の審査において出身国における過酷な状況よりもむしろ業績主義的な審査が行われている点などが新たな発見として挙げられた。 (日本)鈴木は、政策担当者やNGO関係者等に対する聞取り調査に基づき、新たな在留制度導入に至る議論を整理するとともに、新制度導入によって予測される当事者をめぐる環境の変化などを考察した。また、上林の中国での聞き取りにより、大陸での雇用機会の創出が、中国人技術者の来日と同時に帰国を促進するという点も発見された。(米国)オバマ政権の打ち出した高学歴非正規移民の若者の特赦政策の持つ選別移民性についてカリフォルニアにおける運動家から聞き取り、他方ワシントンDCにおける調査で移民改革における高度技能移民政策の持つ重要な位置を確認した。(豪)難民・非正規滞在者の収容施設を視察するとともに、移民・難民支援NGOへの聞き取りを実施し、難民政策の実態の理解を深めることができた。以上のような各国での発見と議論から、排除的な政策と積極的な受け入れ政策が交差する場合がしばしばあり、選別的移民政策を二極的な図式で捉えることの概念的な再検討の必要性が共同研究の中から明らかになってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2012年度は、各国における現地調査を、2013年度以降の本格調査の前段階として、資料収集と現地コンタクトを開拓し、調査の基礎的な政策データの収集段階として位置付けた。しかし、複数のより最新の状況に接近する機会を多く持つことができた。スペインにおいては、多数の政策中枢の元担当者から聞き取りが行え、また非正規移民の収容施設及び移民漂着地域での地方政府・大学・グラスルーツの連携による若者移民のエンパワメント組織の視察とそこでの貴重な機会を得て聞き取りが実施できた。また、オーストラリアでも複数の政府担当者からの聞き取りの上、難民収容施設の視察が実現した。米国調査では、調査者が若年高学歴非正規移民への特赦政策の申請を援助する組織の内部にまで入り、これを参与観察することができ、その結果同政策に対する非正規移民の若者たちの意識の実態にまで迫ることができた。日本の政策に関しても、送り出し国中国での実態調査から対中進出のもつ副次的な作用が日中間の高度労働力移動の新たな空間を生むことも発見できた。以上から、多くの国の調査で、期待以上の成果を上げ、これにより選別的移民政策という概念の再構成への糸口が見えた。一方、英国に関しては当初の担当者の公務上の都合により、調査が実施できなかった。以上から、全体としては当初の予定に近い順調な進展を見ていると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の計画としては、2013年度に本調査を実施し、8ヵ国での現地調査を推進していく。この中で、2012年度は英国も担当してきた研究分担者上林氏は日本の高度技能移民政策の調査に専念し、代わって2013年度は、スペイン移民政策との対比のために重要と考えられてきたイタリアを事例として取り上げ、新たにメンバーに加わってもらう連携研究者の秦泉寺氏がその移民政策を主に文献研究を通じて分析を進めることとする。さらに、可能であれば必要に応じて短期間の現地調査を検討していく。さらに、2014年度に予定していた国際比較のためのシンポジムを、2013年度一橋大学資金も受けて前倒しして実施し、海外協力者のプリンストン大学アレハンドロ・ポルテス教授を中心に、フランス国立科学センターのミリヤナ・モロクワシチ教授、カリフォルニア大学デーヴィス校のルイス・グアルニソ教授の三名を招聘し、彼らとの議論を通じて複数地域間の移民研究・移民政策研究の比較検討と相対化の作業を進め、プロジェクトメンバーへの知識の提供により、本プロジェクトの研究上の進展を図ると同時に、国際的な発信の機会とする。
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