研究課題
1)タイ・Khao Kheow Open Zooにおいて、スローロリスの15個体、カニクイザル8個体、ならびにオランウータン2個体から血液を採取し、リンパ球の培養によって、サルレトロウイルス、サルフォーミーウイルス、サルT細胞白血病ウイルス、サル免疫不全ウイルスを調べる方法の確立を行っている。2)サルマラリア感受性と抵抗性はマラリア原虫由来の病原体関連分子パターン受容体との関係が示唆される。マカク属TLR9には種間差とともに種内個体間にもコード領域の非同義置換を含むいくつかの相違を認めるため、ニホンザルとアカゲザル飼育集団の末梢血を用い、TLR9 の核酸リガンドであるCpGモチーフに対する細胞の応答における個体差をケモカイン遺伝子の転写レベルへの効果を測定することで明らかにした。3)マカク類のマラリア原虫の種多様性を精査し、ヒトマラリアの生息地との重複等を明確にすることを進めている。また、ニホンザルに感染しているPrasmodium cynomolgiにおける宿主の免疫応答を検出するために、遺伝学的ならびに全ゲノム配列解析を進めている。4)スローロリスの種判定は以上に難しいため、染色体とDNAマーカーを使っての種同定の方法を確立する必要がある。DNAはタイ国の対応機関が行うが、染色体分類は京都大学霊長類研究所において、タイ動物園協会の職員が来日して解析に当たる。5)テナガザル科にはヒトに見られるアルファサテライトDNAの高次構造はないと考えられていたが、我々はフクロテナガザルで高次構造を発見したことに続いて、テナガザル科の他の3属について、タイ、インドネシア、バングラデシュの研究者の協力を得て、高次構造の有無を調べた。明確な高次構造を確認し、テナガザルの全4属に共通する現象であることの証拠を提示した。
3: やや遅れている
現在までに共同研究の対応国として、タイ、マレーシア、インドネシア、台湾の4カ国を設定している。タイとインドネシアは研究交流協定(MoU)の覚書を締結し、手続き的には問題なく進んでいるといえる。しかし、それぞれの国においてサンプルの海外への持ち出し等において、いろいろなレギュレーションが存在し、宿主の染色体解析を除いた多くの項目において日本国内で実験解析ができない状況にある。また、台湾は共同研究の話し合いは順調にする進みタイワンザルの糞サンプルは台湾の南部(22個体分)、中部(23個体分)、東部(9個体分)、北部(20個体分)の合計74個体分の糞サンプルを入手し、日本国内で解析できる状況にある。ただし、サンプルが糞のみであるため、ウイルスやマラリアの解析、さらには宿主の解析を十全に進めることができていない。マレーシアはワイルドライフのヘッドクオータとの話し合いはできたものの、調査許可を取ることに手間取っている。このような手続きや対応による不手際によって、進捗がやや滞っていることにより、やや遅れていると判断せざるを得ない。
今後は、まだ共同研究の話し合いが進展していない、ベトナム、中国を入れて調査研究の進捗を図るとともに、マレーシアとインドネシアの調査を具体的に進める予定である。タイワンザルの糞を解析することで、病原体の存在の有無ならびに種同定を進め、今後必要な解析を深化させる。また、必要に応じて宿主であるタイワンザルの血液サンプルから、宿主の遺伝的多様度や病原体への感受性の解析を進める。タイワンザルはニホンザルと同じく、台湾の固有種で他種のマカク類と接触がないため、病原体に対して特異な感染の歴史を持っている可能性があり、ニホンザルにおいてアウトブレイクしたサルレトロウイルス4型(SRV-4)による血小板減少症のような疾患の危険性を示唆する必要がある。最も解析が進んでいるタイでの調査は、より深化した解析を進める必要があるので、今後もスローロリスの解析を継続し、個体数を約40個体まで増やして病原体の探索と宿主の遺伝的解析を発展させる。さらに、スローロリスの臭腺はコブラに匹敵する毒を有することが知られているので、その毒性分についても可能な限り発展させたい。これは本種グループの行動特性に深く関わる可能性があると考えられる。インドネシアにおいてはカニクイザルの糞を集団ごとに収集し、SRVやヘリコバクターや線虫類の探索を試みる。SRVの自然感染がまだ検出できていないため、ニホンザルで発生した血小板減少症の病原体のオリジンを同定することに尽力する必要がある。
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