研究課題/領域番号 |
24255010
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山極 壽一 京都大学, 本部, 教授 (60166600)
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研究分担者 |
村山 美穂 京都大学, 学内共同利用施設等, 教授 (60293552)
湯本 貴和 京都大学, 霊長類研究所, 教授 (70192804)
井上 英治 東邦大学, 理学部, 講師 (70527895)
藤田 志歩 鹿児島大学, 獣医学部, 准教授 (90416272)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ゴリラ / チンパンジー / コミュニティ / 熱帯雨林 / 山地林 / コミュニケーション / 繁殖構造 / 生活史 |
研究実績の概要 |
本研究は、アフリカの熱帯雨林に共存するゴリラとチンパンジーのコミュニティの構造を、低地の熱帯雨林と標高の高い山地林で調べ、個体の分散、コミュニケーション、繁殖戦略、生活史の比較分析から、これらヒトに近縁な2属の類人猿がいかにして共存しながら進化してきたかを解明することを目的としている。2015年度は、山地林のカフジ(コンゴ民主共和国)で、チンパンジーの集団のDNA解析を進め、群れの親子関係など、血縁関係を詳細に明らかにした。その結果、通常チンパンジーのメスは出自群を移籍してから出産するが、移籍せずに出自群で出産していると推定されたメスがいること、1頭のオスの繁殖成功が高いことなどがわかった。また、同集団においてDNA再捕獲法を用いたチンパンジーの個体数推定に関する論文を国際誌で発表した。さらに、チンパンジーだけが生息するウガンダ国カリンズにおいて、ムカラバのゴリラと同じく大型果実Treculia africanaを分配することを発見した。低地林のムカラバ(ガボン共和国)では、長年調査してきたゴリラの1集団とソリタリーのオスの動きを継続してモニターし、この集団に外から若いオスが移入したことを確かめた。オスの移入は他の地域では報告されていない社会的な特徴であり、オスどうしの社会関係が山地のゴリラとは違っている可能性が高い。そこで、個体の生理状態によってゴリラ個体間、とくにシルバーバックと移出前のワカオスとの社会関係がどのように変化するかについて調べるため、ホルモン分析のためのサンプル収集と行動観察を行った。現在資料を分析中である。ムカラバのゴリラの行動特徴を他地域と比較し、ゴリラの行動文化に関する論文をまとめて国際誌に投稿した。また、ゴリラの分散パターンに関するこれまでの研究を概説し、群れを出たオスの分散距離はどの亜種でも長い傾向にあることを明らかにし、国内学会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ムカラバ(ガボン共和国)とカフジ(コンゴ民主共和国)では、現地の協力者が継続して類人猿、気象、植生のモニタリングをしており、順調にデータを集積できている。すでにムカラバのゴリラ、カフジのゴリラとチンパンジーの社会生態、生活史については論文として公表しているし、今回カフジのチンパンジーについて個体の分散と繁殖構造の解析結果をまとめ、論文として公表した。さらに、ムカラバのゴリラの社会や行動の特異性が明らかになったので、他地域のゴリラと比較してその種内変異について論文をまとめた。この変異がどんな要因によって発現しているかを、生理的な指標で分析している。また、これまでにまとめた類人猿の社会生態的特徴をもとに、人類の社会進化を考察し、論文にまとめて英文書籍の1章として公表した。総まとめに向けて順調に進行している。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きムカラバとカフジの両種類人猿と環境動態のモニタリングを実施し、ホルモン試料の採集と分析を進めるが、DNA試料についてはこれまでに収集したものを分析する。これまでに低地林と山地林で植物のインベントリーを実施し、長期にわたるモニタリングを継続させてきたので、その資料を分析し、ゴリラとチンパンジーの共存様式と生態環境との関連を解明する。これまでに収集した両種類人猿の個体のデータを解析して、低地林と山地林の両種のコミュニティの構造を明らかにする。両地域間でゴリラに関してはオス間関係の重要な違いが認められたので、他地域のゴリラのコミュニティ構造と比較しつつ考察を進め論文にまとめる。今年度はまとめの年なので、研究代表者と分担者が集まってこれまでの成果を検討し、ゴリラとチンパンジーのコミュニティ構造から人類の社会進化へつなぐ新しい考えを提示したいと考えている。成果は日本霊長類学会、国際霊長類学会、日本学術会議のシンポジウム等で発表する予定である。
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