研究課題
カンキツグリーニング病(Citrus huang1 ongbing, HLB)はアジア・アフリカの熱帯・亜熱帯地域におけるカンキツ類の最も恐ろしい病害で、最近では南北アメリカ大陸にも被害が拡大している。 わが国では1988年に西表島で、現在では沖縄県のほぼ全域と鹿児島県の一部で確認されている。 温暖化によりミカンキジラミが分布域をさらに拡大した場合、沖縄のみならず日本各地のカンキツ類の生産に深刻な影響を及ぼす可能性が高い。HLBの病原細菌Candidatus Liberibacter asiaticus (Ca. Las) の媒介虫ミカンキジラミDiaphorina Citri 体中で 同細菌と拮抗するミカンキジラミ寄生菌を東南アジア各国で分離し、環境に優しい新規生物的防除資材の発掘とそれによるHLB防除基盤の確立を目的としている。今までにタイおよびベトナムにおけるHLBに拮抗するミカンキジラミ寄生菌はPaecilomyces lilacinusであることを究明したが、新たに奄美大島でBeauveria bassina、沖縄でIsaria fumosorosea を分離した。また、最も防除に期待されるI.yavanicaの野外実験を試みたが、室内の実験と同様に高い効果が認められた。さらに、ミカンキジラミ感染個体およびI.yavanica接種葉から健全個体への水平伝搬も確認された。
2: おおむね順調に進展している
(1)寄生菌に寄生したミカンキジラミの採取 : 東南アジア、沖縄、奄美大島において罹病したミカンキジラミを採取して、新たにBeauveria bassinaおよびIsaria fumosorosea を分離した。 (2) 寄生菌の分離・同定と系統解析 : 昨年度開発した選択培地を用い東南アジア、沖縄、奄美大島からの罹病ミカンキジラミより新しい菌株を分離し、同定を行ない新たの寄生菌の解析を行った。 (3)I.yavanicaの病原性に関する調査 : ミカンキジラミに極めて強い病原性を持つ本分離株の圃場における有効性を調査した結果、室内実験と同等の効果が認められた。(4)I.yavanicaの水平伝搬に関する調査 :I.yavanicaに感染した個体から健全個体への伝搬することうを確認した。さらに、I.yavanica処理葉にミカンキジラミ健全個体を放飼した場合にも効率に伝搬することが認められた。したがって、圃場レベルでの効果はさらに高まるものと期待される。(5) I.yavanica分生子の大量生産に関する試験 :各種培地を用い2段培養法 (液体培地と固形培地) により分生子の大量生産を試みた結果、L-broth寒天培地において良好な結果をえた。(6)I.yavanica分生子の安定性に関する試験 :I.yavanica分生子は大気中および液中でも不安定で、さらに保存法の検討が必要になった。(7)今までの結果を国際会議において発表して高い評価を得た。上記の理由により概ね順調に進展しているものと判断した。
今年度の研究の方針は以下に箇条書きする項目について重点的に行う。(1)寄生菌に寄生したミカンキジラミの採取 : 東南アジア、沖縄、奄美大島において罹病したミカンキジラミを採取する。 (2) 寄生菌の分離・同定と系統解析 : 昨年度分離した新しい寄生菌を中心に東南アジア、沖縄、奄美大島からの罹病ミカンキジラミより寄生菌を分離し、分子生物学的方法により系統を解析を行い、より強い病原性と安定性のある菌株の検索を行う。 (3)I.yavanicaの病原性に関する調査 : ミカンキジラミに極めて強い病原性を持つI.yavanicaの圃場における有効性を室内実験と合わせて実施する。また、奄美大島から分離したB. bassinaの有効性についても検討する。奄美群島は透水性の高い琉球石灰岩に覆われているため、化学農薬に代わる資材が求められているためので本菌の有効性を緊急に調べる必要がある。 (4)I.yavanica分生子の大量生産および安定性に関する試験 : 昨年度に引き続き各種培地 (L-broth, Sabouraud, Potato Dexrose およびOatmeal寒天培地) と各種穀物(麦、トウモロコシなど) を用い2段培養法 (液体培地と固形培地) により分生子の大量生産を試みる。 また、各種手法による分生子の安定性の向上試験を実施する。(5)I.yavanicaの各種害虫に対する病原性試験:各種昆虫に対する病原性試験を再度行い病原性に関与する種々の要因(温度、湿度など)を解析する。上記の実験を行うとともに、今までの結果を国際誌に発表する予定である
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蚕糸・昆虫バイオテック
巻: 83 ページ: 153-158
日本応用動物昆虫学会誌
巻: 58 ページ: 119-125