研究課題/領域番号 |
24256002
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応募区分 | 海外学術 |
研究機関 | 旭川医科大学 |
研究代表者 |
伊藤 亮 旭川医科大学, 医学部, 客員教授 (70054020)
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研究分担者 |
迫 康仁 旭川医科大学, 医学部, 講師 (40312459)
柳田 哲矢 旭川医科大学, 医学部, 助教 (40431837)
中谷 和宏 旭川医科大学, 医学部, 准教授 (70109388)
中尾 稔 旭川医科大学, 医学部, 准教授 (70155670)
岡本 宗裕 京都大学, 霊長類研究所, 教授 (70177096)
岡本 芳晴 鳥取大学, 農学部, 教授 (50194410)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 寄生虫 / 感染症 / 遺伝子 / バイオテクノロジー / 進化 |
研究概要 |
①ロシア各地の動物、患者から入手したエキノコックス属条虫からタホウジョウチュウ(4種類すべての遺伝子型)、タンホウジョウチュウ(G1, G6, G8, G10)が確認された。②モンゴルの野生動物からタホウジョウチュウ(Mongolian genotype), タンホウジョウチュウ(G6/7, G10)が確認された。③中近東(ヨルダン、イラン)から入手したタンホウジョウチュウ(G1)の遺伝子解析結果とこれまでの成績とを比較し、タンホウジョウチュウ(G1)の起源について考察した。④エチオピアのヒツジ、ウシ、ラクダから得られたエキノコックス(幼虫)についての遺伝子解析から、タンホウジョウチュウ(G1,G6)が確認された。⑤ハイエナから採取されたテニア属条虫の遺伝子解析、形態観察から、ヒトへの感染が予測される未記載種が発見された。一方、血清診断ならびに遺伝子診断の研究では、⑥これまで旭川医科大学で開発してきた遺伝子組み換えAgB8/1(単包虫症)ならびに遺伝子組み換えEm18(多包虫症)を用いる検査がそれぞれ、イラン、中国、ロシア、モンゴル、イタリアにおける単包虫症患者、中国、ロシア、モンゴル、フランスにおける多包虫症患者検出に役立つ成果が得られた。⑦脳嚢虫症に関する血清診断法と遺伝子診断法の開発と評価が順調に進展した。中国、タイ、インドネシアでヒトへの感染源となる有鉤条虫保虫者、有鉤嚢虫患者をリアルタイムで検出できる検査技法が確立され、流行現場で評価された結果、予期していた以上に深刻な流行拡大が懸念される事態に直面している。⑦さらに、中国、タイで入手したムコウジョウチュウとアジアジョウチュウのミトコンドリア並びに核遺伝子を詳細に解析した結果、両種間の雑交個体が複数確認された。⑧肝多包虫症患者から病巣が完全に切除された場合に観察される抗体応答の著減機構解析モデルを確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
概要に述べた如く、予想以上の成果、100点以上、200点くらいの成果が上がっている。現在、印刷中の業績の多さからも客観評価に十分耐えうる達成度と自己評価している。①ヒトへの最も病害性が高いタホウジョウチュウの北半球での地理分布と遺伝子多型について、これまで全く手が付けられなかった、ロシアとモンゴル、特にロシアでの研究が大きく展開し、地球規模で今後の流行を推測することも可能になると予測される。北半球で流行している多包虫症の病原体であるタホウジョウチュウでこれまで旭川医科大学が中心に確認している4種類の地理的遺伝子型(北アメリカ、アジア、モンゴル、ヨーロッパ型)がすべてロシアから確認され、基本的にそれぞれの分布域が異なっていること、また一部同所的な分布が確認されている遺伝子型が集中している地域などが確認されたことは画期的な成果である。ロシア人研究者の協力が大きかった。②モンゴルでの研究調査も、若手研究者育成、研究者間の協力体制構築指導と相まって、野生動物からエキノコックス条虫を確認できたことは、すでに多包虫症ならびに単包虫症人体症例の遺伝子解析結果とともに、計画以上の成果である。③エチオピアの野生動物、ハイエナから採取されたテニア属条虫から未記載の新種条虫が見つかっており、これも計画以上の成果である。(ヒトへの感染性の有無の確認が今後の課題である。)④インドネシア、タイ、中国におけるテニア属条虫に関する遺伝子診断法、流行現場で実施可能な検査法の評価ができたことも計画以上の成果である。さらに⑤患畜(ブタ)の検査で、一般に用いられている吸光度を機械で読み取るELISA法ではなく肉眼で発色有り、無しによって患畜を検出する世界で最初の予備成績が得られたことも計画以上の成果である。⑥肝多包虫症患者における抗体応答減衰機構解析モデルが確立できたことも計画以上の成果である。
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今後の研究の推進方策 |
①テニア属条虫、エキノコックス属条虫の遺伝子解析から、エキノコックス条虫各種の起源にせまる研究ならびに種間相互の干渉と進化、未解決のいわゆるテニア属、エキノコックス属、さらにモニエジア属条虫を含む主な円葉目条虫の遺伝子系統解析をさらに展開し、最も病原性が高いテニア科条虫の種分化、分子共進化、病原性の獲得機構にせまることができると予測している。②ムコウジョウチュウとアジアジョウチュウの交雑個体が確認され、純粋なアジアジョウチュウはフィリピンあたりにしか分布していないという仮説が得られていることから、フィリピンでのアジアジョウチュウ検索を展開したい。③免疫診断、遺伝子診断法の研究は、流行現場で感染者の検出をリアルタイムに実施できる技術が確立できているが、さらなら簡便な技法の開発、技術革新が求められる。また、家畜、ブタにおける感染個体確認検査法はこれまで全世界で確立されていない。これまで全世界で展開されてきている検査法は循環抗原を検出するAg-ELISAであるが、これは理論的にもヒトではある程度利用できるとしても糞食が普通である、いわゆるスカベンジャー動物であるブタの検出は不可能であると考えている。よって、本研究で感染者の検出に有効な診断抗原が、基本的に流行地でのブタ、イヌの検出にも役立つことが判明していることから、この抗原と、ブタに普通に感染しているホウジョウジョウチュウ(T. hydatigena)の確認に役立つ抗原の検索ならびに比較解析から、全世界の流行地で肥育され、ヒトへの感染源となる患畜個体確認に役立つ検査法を世界に先駆けて開発する。④肝多包虫症における抗体応答減衰機構が肝切除による生体側の特別な防御機構である可能性が予測されることから、新しい非侵襲性の治療法の開発に結び着く可能性がある。
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