研究課題/領域番号 |
24300042
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
吉澤 誠 東北大学, サイバーサイエンスセンター, 教授 (60166931)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 3D酔い / 立体視 / 垂直視差 / 生体影響 / 眼精疲労 / 輻輳調節 / 焦点調節 / 融像限界 |
研究実績の概要 |
映画・テレビジョン・テレビゲームの3D化が急速に進んでいる.しかし,人工的な立体視が人間に与える生理的・心理的影響やその効果については未だ十分明らかにされておらず,そこで本研究では,主観的評価や自律神経系指標などの客観的評価の両方に基づき,主に「3D酔い」を対象として,1)人工的な立体視によって生じる3D酔いの発症条件の解明,2) 3D酔いの原因が映像酔いと不自然な立体視による眼精疲労の相乗効果に関係するという仮説の検証,3)3D酔いを予測するモデルの構築とその危険度の定量的な算出方法の開発,4)3D表示が人間に与える臨場感・迫真性の客観的評価方法の開発,を目的とする. 本年度では,3D酔いの原因としてこれまでほとんど考慮されなかった垂直視差に着目した.すなわち,人工的な立体視では,適切な左右両眼視差が発生する条件として,それを見る人の頭部が垂直で両眼が水平となっていることを前提としているが,実際には必ずしもこの条件が維持されておらず,立体視を妨げる垂直視差が発生する.このような垂直視差のある映像を長時間見続けることによって,眼精疲労や3D酔いが発生する可能性がある. そこで本研究では,3Dテレビジョンにおいて人為的な垂直視差を含む奥行位置がそれぞれ異なる上中下3層のランダムドットパターンのうち最も手前に見えるものを答えさせる実験により,垂直視差の大きさに対する正答率の変化を求めた. 実験における回答がベルヌーイ試行であるとみなす検定結果から判断して,垂直視差が0.6度以上あると,有意に正答率が低下するとみなすことができた.また,疲労の目安となるフリッカー周波数も垂直視差が0.6度以上で有意に増加することが明らかとなった.以上から,人工的立体視による生体影響を避けるためには,頭部の傾きなどによって生じる垂直視差を0.6度以内に抑えるべきであることが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
従来,人工的立体視における眼精疲労あるいは3D酔いの原因として,輻輳距離と焦点距離の矛盾などが指摘されてきた.しかし,特に家庭内での3Dテレビジョンの視聴において頻発する頭部の傾きによる垂直視差も原因である可能性がある.これについては従来ではほとんど研究されておらず,今年度の研究によってはじめて,垂直視差の融像限界が0.6度であり,これが眼精疲労と関係することを統計的検定によって明らかにしたため.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,本年度明らかになった垂直視差が人工的立体視による眼精疲労あるいは3D酔いの原因である可能性があるという成果に基づき,3D酔いの原因が映像酔いと不自然な立体視による眼精疲労の相乗効果に関係するという仮説の検証を,いくつかの3D映像提示手法を導入することで推進していく.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じたのは,本年度の研究成果を海外で開催される国際会議において発表するとともに,3D酔いの発症条件に関する研究情報を収集する予定であったが,昨年度のこの会議の申込時期においては,まだ成果が十分でなかったために申し込みができず,旅費相当の経費に残余が生じたことによる.
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次年度使用額の使用計画 |
本年度では,昨年実施した研究成果が既にまとまっており,この会議への申し込みが済んでいるために,査読を経て採択が決定された場合には,次年度使用額を旅費に充当する予定となっている.
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