研究課題/領域番号 |
24300043
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
星野 准一 筑波大学, システム情報系, 准教授 (40313556)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | エンタテインメント / サービスシステム |
研究実績の概要 |
家庭学習、健康、創造的活動、社会的交流などのエンタテインメント・サービスシステムを構築するための要素技術とプラットフォームの研究を行った。本研究期間では、知的キャラクタ技術を利用したエンタテインメントの制作・提供・フィードバックの一貫したプロセスを構築するための基盤システムの構築を進めた。各システムを統合的にマネージメントできるように、コンテンツの形式化とデータモデルの構築を行った。 知的キャラクタ技術の利用としては、仮想キャラクタによるインストラクタによって運動することができる五指と上肢の同時計測が可能な高齢者の協調運動トレーニングゲームのアプリケーションを開発した。五指の圧力、運動タイミング、運動の滑らかさなどの様々な指標に対応したゲームユニットを制作して、高齢者による実証実験を行ったところ、協調運動の個人差を定量化できることを明らかにした。 また、モーション生成技術については、海洋環境における魚類の定性構造モデルに基づく仮想アクアリウム基盤を開発した。本手法では、これまでの動きの突発性と多様性に基づく生命的モーション生成技術を発展させて、多様な泳法を統一的に実現できる運動プランニング機能を実現した。これにより、アジとヒラメのような骨格形状の異なる魚の生命的モーションを生成することができるようになった。多視点から映像投影可能なプロジェションシステムなどの多様なコンテンツ制作に役立つプラットフォームの開発も行った。 更に、ゲームAIキャラクタの基本技術として、キャラクタのbelievabilityを向上させる手法や、多人数プレイヤにより対戦ゲームを行うMOBAのための状況認識技術と戦術の選択技術を新たに開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
エンタテインメントの生産・提供を統合的に行うことができるサービスシステムの基本構成を明らかにした。複数人の制作者によるタスク構造化に基づく共同開発支援システムの実験的運用が行われている。コンテンツ制作においては制作手法が暗黙的で、制作者の個人のノウハウであるところが多い。本システムではワークフロー分析により制作手順を明らかにするとともに目的に合わせて再利用することを可能にした。現時点で150程度のタスクユニットを利用して改善を続けている。 実際のユーザを対象とした代表的サービス事例として、協調運動トレーニングゲームや、子供の音読支援なども実現した。生命的キャラクタ技術を利用した音読支援ついては、物語世界を表現するために映画などで利用されているアニマトロニクス技術を利用したロボットを開発した。子供の音読に合わせて頷いたり表情を変化させることができる。ビデオ分析により子供の音読行動(発話、注意配分、無駄な動きなど)の時間的な割合を記述したところ、対象に注意を向けることで音読の明瞭さが向上して、無駄な動きが減る傾向が確認された。 また、キャラクタ技術を利用した代表的サービスとして、親子の食育のための学習ゲームや、タスク中心型教授法に基づく第2言語学習ゲーム、商品について解説するショッピング支援キャラクタ、学習者の理解方略の分析に基づく数学学習ゲームなどの様々な制作事例を示した。また、発展的なサービスとして、芸術鑑賞支援、趣味によるユーザのマッチング支援などの可能性について検討を行った。
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今後の研究の推進方策 |
共同制作支援システムを定常的な利用が可能な完成度に高めて行くとともに、コンテンツ分野の初学者にどの程度適用できるかを検証する。また、問題設定、コンセプト設計、プロトタイプ開発、分析・評価、プレゼンテーションの各プロセスにおけるタスクユニットを制作して、研究開発過程に適用する。コンテンツ制作の過程で必要となる特定領域知識の収集支援などの支援技術の高度化も図り、一般公開可能な実用品質のコンテンツ制作に利用できるように完成度を高めていく。 本研究期間では、音読支援アニマトロニクスなども実験環境における短期的な評価で有効性を検証したが、児童館や家庭などの子供の日常環境での有効性の検証や、1ヶ月程度の長期利用により音読行動がどのように変わるかを分析することが挙げられる。 本研究で実現した共同制作支援システムと各サービス事例の連携により、コンテンツを継続的に提供できることを確認する。例えば、ショッピング支援キャラクタのキャラクタや発話などのコンテンツを制作するとともに、キャラクタ端末の前でユーザの滞在率や個々の説明アイテムへの注目率などを制作者にフィードバックする一連のシステムを開発することが可能になると考えられる。 これらの研究を通して、大規模コンテンツの制作・提供・評価のプロセスをサポートすることができるエンタテインメント社会インフラを構築するとともに、生涯教育などのサービス提供を可能にしていくことが考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年1月、利用実験のデータ分析を行ったところ、学習支援ゲームなどの研究で効果を確認することができたが、ユーザ体験の成長過程を分析して、新たな知見を発見するためには、1ヶ月以上のユーザ評価データの収集が必要であることが分かった。
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次年度使用額の使用計画 |
エンタテインメント・サービスの長期の利用実験による有効性検証を行うための、長期評価用システムの開発と、データ分析のための人件費を支出する。また、新たに得られる研究成果を発表するための学会発表費用を支出する。
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