研究概要 |
顕微法においてはさまざまな対象への高分解能な性能が求められ,日々開発が進んでいる。回折イメージングは,光源の波長オーダーが期待できる新しい顕微法であり,ここ数年においては,さまざまな光源での研究が盛んに行われている。特に,既存の顕微鏡のレンズの分解能を超えるための手段としても注目を集めている。その中で問題となるのは,測定される回折強度が,実像のフーリエ変換が原理的に得られないことにある。X線,電子線にしても,電子カウントに伴う量子ノイズやダイレクトによるデータ欠落は現有機器では,避けられない問題とされる。数学的にこのような問題を切り抜けるには,たとえ工夫されたアルゴリズムがあろうとも,それが真を求めるのに妥当であることを示す必要がある。 平成24年度においては,ノイズや測定欠落などによって,測定される回折強度が対象のフーリエ変換とは異なるデータが得られることに再着目する。回折強度への量子ノイズのモデルとなるボアソンノイズを設定し,様々な初期値から位相回復を行い,十分にアトラクタ領域に落ち着いた実像の解集団分布を求める。1000個クラスの解からの平均化を行って得られる平均実像について解析すると,平均像と真の実像との関数空間における距離は,個々に得られている実像解のうちで真の実像に距離の意味で一番近い像よりも小さく,平均化が最良の解を提供することを実質的に明らかにした。距離としては,2つの確率分布の差異を示す情報量を拡張した測度を用いたことで,情報量を位相とした空間における解析の第1歩を記し,次年度以降の解析的研究につなげることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
回折イメージングにおいて,統計的学習アンサンブルが実像を得ることの実質的役割を計算機実験を通じて明らかにできた。それによって,位相問題の理論的研究でまず取り上げられる解の存在や一意性の問題に,統計性が本質的に関わることが明らかにしたことで,当該年度の研究目標について,概ね達成できたと言える。
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