研究課題/領域番号 |
24300065
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研究機関 | 室蘭工業大学 |
研究代表者 |
塩谷 浩之 室蘭工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90271642)
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研究分担者 |
郷原 一寿 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40153746)
前田 純治 室蘭工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00002311)
渡邉 真也 室蘭工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (30388136)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 位相回復 / 量子ノイズ / 制約計算 / 逆問題 / 回折イメージング |
研究概要 |
回折イメージングとは,観測された回折パターンと対象物質の事前情報に基づいて,フーリエ位相を復元して実像を復元する画像復元手法の一種である。電子線回折パターンを利用する場合,電子数カウントが記録されたイメージングプレートやCCDからのデータを用いるが,量子ノイズや計測のダイナミックレンジにより対象物質の正確なフーリエ強度分布は得られない。回折イメージングには,それらの影響を排除した実像を構成する必要がある。対物レンズを用いる通常の電顕を上回る有用な手法となるには,顕微鏡として適切に実像を提示するまでの計算時間の問題が立ちはだかる。例えば,2048×2048ピクセルの実空間の場合,ノイズや欠損がない理想的な回折パターンを用いたとしても,精度のよい位相回復像を得るにはフーリエ変換が数千回必要となり,量子ノイズのみとしても回復には1万回以上は必要となり,領域メモリの計算量も含めると高性能サーバーでも日単位の計算時間が必要となる。 回折イメージングにおいて,ハードウエア化が期待されるのはフーリエ変換の部分であり,実数値精度での計算が必要となるために,通常の位相回復アルゴリズムでは回路化することは難しい。本研究課題においては,FPGAでのデジタル計算とGPUなどのソフトベースのボード経由の計算とを併用するためのアルゴリズムや関連するハードウエアへの最適な計算過程を明確化していくことが求められている。平成25年度においては,前年度までの研究成果を基に,解の探索の効率化を数理的に検討することを含めて,フーリエ変換などの典型計算をハードウエアに移す特殊な計算装置への基礎段階の研究を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ソフトとハードの両方の性質を利用できるFPGAなどの装置は,回路ベースの研究において推進されているが,演算や変数の制限などがあるために,回折イメージングのアルゴリズムのすべてを担うハードウエアの直接的な開発は現状では難しい。そこで,計算を分散化させることで,ハード,ソフトそれぞれの長所を生かした統合的な計算装置として,回折イメージングの計算機構の実現を目指した技術開発を行う。 本研究においては、桁制約と位相回復との関係についてシミュレーションを手掛かりに,桁精度と回復像の関係について研究を進めることで、必要なハード規模との関係を明らかにする。例として有効6桁の例で位相回復像が得られるが、回折パターンの量子ノイズの影響で初期値依存は避けられない。そこで, 1000種の初期値からの回復像を求め、それらを平均化することで、桁制約においても良質な回復像が得られることが分かった。回復アルゴリズムにおいて,探索条件をより優位に進めるためのサポート抽出法がハードウエアの計算機構に必要となる。そこで,クラスタリング手法を併用した位相回復アルゴリズムを新規に提案し,その有効性を検証したのちにアメリカ光学の論文誌に投稿し採録されている。よって,本研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
情報科学が導く電子線波長の超分解能の世界を目指した本研究課題は,情報科学によって物理系でネックとなっている研究課題を進展させることに大きな意味を持つ。前年度の研究によって進められたFPGAなどの組み込み計算装置の基礎的開発に基づいて,イメージングプレートの読み取り装置のデータを組み込みボードによる計算の実現のための専用計算過程の開発に移行する。さらには,回折イメージングの数理についての数理研究を進める。 具体的には,フーリエ変換の全体からなる関数空間の関係に,複素力学で表現される位相回復の解の集団の関係を情報理論的に解析し,組み込み回路ボードにおいて計算に適切となるようなアルゴリズムの改良を行い,専用計算装置に用いるソフトウエアを開発する。 回折イメージングは,原理的には波長限界以内であれば有効な顕微法であり,現有の電磁レンズの性能を上回るイメージングには不可欠である。これまでの数理・計算法・システムの3要素の研究から,開発された回折イメージング専用装置を用いてカーボンナノチューブの高次元な原子レベル構造など様々な試料のイメージングでトップクラスの分解能に挑戦できる手法の完成を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初参加予定だった海外学会や国内学会のうち,海外含めいくつかの学会への参加が取りやめとなったこと,さらには,研究進行に応じて,研究代表者と研究分担者とで随時予定されていた研究打ち合わせを行えない時期があったため,次年度使用額が生じた。 次年度においては,研究進展で新たに生じた部分的な研究課題を含めて,代表者と分担者がより一層組織的に対応していく必要がある。実験研究を担当している研究分担者と研究代表者の所在地から離れているので,代表者が本課題における研究成果を総合的にまとめていくための研究打ち合わせ旅費や,実験に関わる少額の機器や用具などの購入も予定している。
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